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水銀・ストロンチウム光格子時計の周波数比、現在の「秒」の定義を超える精度で測定

 東京大学の香取秀俊教授らが、水銀を用いた光格子時計を新たに開発した。以前に開発したストロンチウムを用いた光格子時計との周波数比を測定し、現在の「秒」の定義を超える精度で測定することに成功したと5月27日に発表した。ストロンチウムを用いた光格子時計は、現在の「秒」の定義に用いられるセシウム原子時計の1000倍の精度。現在の「秒」の定義で表現できない物理量が測定されたことで、「秒」の再定義が求められる。今後、継続的に測定することで周波数比に変化が見られるならば、「物理定数」が定数ではなかったことになり、現在の物理学を根底から覆す可能性もある。本研究成果は、米国物理学会誌「フィジカル・レビュー・レターズ」のオンライン版に近日中に公開される。

 現在の「秒」は、セシウム原子に固有の共鳴周波数(およそ92億ヘルツ)をもとに定義され、3000万年で1秒のずれに相当する精度。一方、2014年に香取教授らが開発した低温動作ストロンチウム光格子時計は、160億年で1秒のずれに相当する精度。原子を囲む室温の壁から放射される電磁波(黒体輻射)の影響を小さくするため、絶対温度95ケルビンに冷却して低温動作する光格子時計を2台開発し、約1カ月にわたって検証を行って、今年2月に世界最高精度を確認した。

 今回開発した水銀光格子時計は、これまで光格子時計に用いられてきたストロンチウムやイッテルビウムに比べて黒体輻射の影響を受けにくい水銀を用いることで、冷却することなく室温で動作する。長期安定動作する複数の紫外レーザー光の技術を確立したことで、「秒」の定義の精度を超える水銀光格子時計を実現した。

 セシウム原子時計の3000万年に1秒という精度でも十分に高精度に感じられるかもしれないが、そうとばかりも言えない。たとえばカーナビは原子時計を搭載したGPS衛星からの信号を使って車の位置を割り出しているため、仮にGPS衛星の原子時計が0.0000001秒狂えば、車の位置は30mもずれることになる。今回開発された、更に高い精度の水銀やストロンチウムを用いた光格子時計であれば、相対性理論の世界を身近に体験できるようになるという。たとえば地表からの高さが1cm違うだけでも時間のずれを観測することができる。「これは“時空間”の歪みを可視化する時計なのです。かつてGPSができたとき、カーナビに利用されるなどと予想した人はいませんでした。同じように、光格子時計も誰かが思わぬ使い方を考えて、私たちの暮らしをより豊かに便利にしてくれると思います」と香取教授。地殻変動の観測や地下資源の探査への活用も期待できそうだ。

画像提供:科学技術振興機構(JST)