進化する「光学迷彩」
視覚的に対象を見えなくする「光学迷彩」とは、1989年に発表されたSF漫画「攻殻機動隊」で使われ広まった用語。作中では再帰性反射材(光が入射した方向に反射する素材)に背景を投影することで実現しているとして描かれた。現在、カメレオンのように対象の表面に周囲を映し出す「映像投影型」や、透明人間のように完全に光を透過・回折させる「迂回型」などが実用化に向けて研究されている。
慶応大学大学院の稲見昌彦教授は、背景を撮影したビデオカメラ映像を再帰性反射材に投影することで光学迷彩を実現している。たとえば、2012年には後部座席に車体後方の背景映像を投影することで、車をバックさせる際に運転席から後方を見通せる「透明プリウス」が日本科学未来館に展示され、話題を集めた。
理化学研究所の瀧雅人研究員らの研究チームは、「非対称な」光学迷彩を設計する理論を構築した。これまでの迂回型の光学迷彩では、対象が見えなくなると同時に、対象からも周囲が見えなくなる問題があった。しかし、非対称な光学迷彩は、対象が外部から見えなくなっても、対象から外部は見ることができる。基礎となった理論は2012年にスタンフォード大学のグループが提唱した「光子に作用するローレンツ力」の概念。まだ非対称な光学迷彩を設計する理論が提案されたところだが、将来的には「フォトニック結晶」や「メタマテリアル」を用いて実現できるのではと期待されている。
「光学迷彩」の技術を使ったマントを着た慶応大学大学院の稲見昌彦教授。背景に体が溶け込んでいるように見える=稲見教室提供、Ken Straiton撮影