光でうつ症状が改善 理研・利根川進らの研究チームが発表
理化学研究所脳科学総合研究センターの利根川進センター長らの研究チームは、うつ状態のマウスに過去の楽しい記憶を人工的によみがえらせることで、うつ状態を改善できたと発表した。光に反応して細胞を活性化させる特殊なたんぱく質をマウスの神経細胞に取り込み、このマウスをうつ状態にした後、神経細胞に光を当てて活性化させたところ、うつ行動が減少したという。研究成果は6月18日付の『ネイチャー』に掲載された。
研究チームが着目したのは、うつ病は「過去の楽しい体験を正確に思い出せなくなる特徴がある」という点。まずオスのマウスに、メスのマウスと過ごすという楽しい体験をさせた。この期間、脳内では記憶や学習をつかさどる「海馬」の神経細胞が活性化しており、この細胞に特殊なたんぱく質チャネルロドプシン2を選択的に取り込ませた。このたんぱく質を取り込ませると、後にその神経細胞が活動していない時でも、光を当てることで特定の遺伝子を発現させられるようになる。
その後、オスのマウスの体を固定することで慢性ストレスを与え、「嫌な刺激を回避する行動が減る」「本来なら好む甘い砂糖水を好まなくなる」といったうつ状態を引き起こした。このうつ状態マウスの海馬の神経細胞に光を当てて人工的に活性化させたところ、これらの行動が減り、うつ症状の改善が見られたという。
同研究所の加藤忠史博士は「すぐにヒトに応用できるものではないが、うつ病という複雑な精神現象に取り組むことができる可能性を示す重要な知見」としており、研究チームの利根川センター長は「うつ病の新しい治療法の開発に役立つかもしれない」と、今後の研究に期待を寄せている。利根川センター長は、免疫グロブリンの特異な遺伝子構造を解明したことで1987年にノーベル生理学・医学賞を受賞している、日本の代表的な研究者の一人。
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