柔軟かつ炭素鋼を超える強靭な複合材料「繊維強化ゲル」を開発 北大
北海道大学の龔教授らは、「繊維強化ゲル」を開発したと16日に発表した。繊維強化ゲルは、曲げやすく柔軟でありながら、金属をも凌駕する強靭性を持つ複合材料。網目状につながったポリマーが、多量の水を含んだゼリー状の材料である「ハイドロゲル」を直径10µm(μ=マイクロは100万分の1)程度のガラス繊維からなる織物と複合させることで作られる。
人間のからだは60%が水で構成されており、水を含んだハイドロゲルは生体となじみが良く、人工組織や再生医療の基材などの医療材料として期待されている。また、ハイドロゲルはその大部分が水であり、環境に優しい材料でもある。しかし、従来のハイドロゲルはもろく、実際の材料としての使用はコンタクトレンズなどごく限られたものを除き困難だった。そこで大量の水を含みながらも壊れにくいハイドロゲルの開発が世界的に進められている。
今回開発した繊維強化ゲルの壊れにくさ(破壊に必要なエネルギー)は500kJ/m2あり、強靭さで知られる炭素鋼で100KJ/m2程度、ガラス繊維強化プラスチック(GFRP)で10KJ/m2程度であることを考えても驚異的な超強靭性といえる。この値はガラス繊維織物単体の25倍、ゲル単体の100倍であり、単なる両成分の足し合わせではなく、両者の相乗効果によって極めて強靭化していることがわかる。これほどの強靭性を持ちながら、体積比にして40%もの水を含んでいる。
さらに、この繊維強化ゲルのメカニズムを応用して、複合にゲルではなくゴムを用いることで、強靭な繊維強化ゴムを合成することもできる。予備的に、シリコーンゴムとガラス繊維織物を複合させたところ、壊れにくさが200KJ/m2の強靭な繊維強化ゴムが得られた。
この研究は、内閣府の革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)で、伊藤耕三プログラム・マネージャーの研究開発プログラム「超薄膜化・強靱化『しなやかなタフポリマー』の実現」の一環として行われた。伊藤氏は、「今回の成果は、内部に多量のイオン結合を含むポリアンフォライトゲルの破壊機構解明と犠牲結合の最適化を進める中で、ガラス繊維との複合化によって両成分の相乗効果を生み出した結果、金属をも上回る驚異的な強靱性を実現した画期的なものです。今後、このような強靱化の手法やメカニズムが、本プログラムにとっての重要な基礎技術になると共に、医療用材料や工業用材料など幅広い応用展開につながることを期待しています」とコメントしている。