【コラム】あれから2年 ジャーナリスト後藤健二さんをしのぶ演劇上演
ジャーナリストの後藤健二さんが、過激派組織「イスラム国(IS)」に拘束、殺害されてから、今日2月1日で丸2年が経つ。自身の命も顧みず、それほどにまで後藤さんが伝えたかったこととは何だったのだろうか――。
2周忌を迎える数日前の1月28日、生前に後藤さんと交流のあった劇団による音楽劇と、ジャーナリスト栗本一紀さんらによるトークイベント「藍色のシャマール〜あれから2年〜」が、久遠キリスト教会(東京都杉並区)で上演された。シャマールとは、中東の砂漠に吹く熱い風のことだ。
音楽劇「イマジナリーライン」は後藤さんへの取材を重ね、その経験談に基づいて脚本を書き下ろしたもの。昨年大阪で上演し、東京では今回が初めて。東京上演にあたり、脚本家・演出家の馬場さくらさんは「後藤さんはもう何も語れなくなってしまったから、生きている私たちが伝え、語り、行動して残していきたい。これからもずっと続けていこうと思っています」と心境を語った。
劇では、後藤さんがモデルとなった戦場ジャーナリストの主人公が、紛争後のとある町での取材を通して地域の人々と信頼関係を築いていく様子や、事実を「伝える」というジャーナリストの使命への思いなどが、演劇とゴスペル、ダンスで表現された。生前、この演劇を観た後藤さん本人が、入れてほしいと付け加えた言葉がいくつかあったという。その一つが「イマジナリーライン」だ。イマジナリーラインとは、「越えてはならない一線」という映像の専門用語で、撮影時の原則として最初に学ぶことだという。
音楽劇の後は、後藤さんの10年来の友人というパリ在住の映像作家でドキュメンタリー映画監督の栗本さんと馬場さんによるトークライブも行われた。栗本さんと馬場さんの対談という形で会場からの質問に答えながら、後藤さんの人となりや生き方についてなどを語った。
劇のタイトルとなった「イマジナリーライン」について栗本さんは、後藤さんにはイマジナリーラインがなく、被写体に寄り添い一体となった撮影をしていたという。「紛争地での取材で後藤さん自身も傷つき、トラウマにも悩んでいたと聞いています。だけど、後藤さんは最後まで現場での取材をやめなかった。最後のあの映像は命を懸けた、後藤さんの最期の現場レポートだったと思うんです」と話した栗本さん。画面を見据える後藤さんの目の「強さ」が、今も忘れられないという。
後藤さんの思いを語り継ぐためにと、栗本さんは『ジャーナリスト後藤健二 命のメッセージ』(2016年、法政大学出版局)を執筆。著書の中ではジャーナリストとしての、また一人の友人としての後藤さんの姿が書かれている。後藤さんは、自分はジャーナリストである前にキリスト者だと口にするほど、熱心なクリスチャンでもあったという。栗本さんは著書の中で、「現場で出会うどんな人に対しても優しさを忘れなかった」と、その人柄に触れた。
全国放送で取り上げられ、日本中を震撼させた事件から早2年。今、世界で何が起こっているのか。そして、私たちにできることは何か、考え続けていきたい。