第15回聞き書き甲子園フォーラム開催 “名人”の人生写し取る
高校生が、森、川、海と関わるさまざまな職種の“名人”を訪ね、一対一で「聞き書き」をして、知恵や技術、人生そのものを記録する取り組み「聞き書き甲子園」。2002年に始まって以来、毎年全国から100人の高校生が参加している。名人らの生き方に触れた学生たちの中には、人生に影響を受けた人も少なくないようだ。
第15回フォーラム開催
「聞き書き」とは、話し手の言葉を録音し、一字一句すべてを書き起こしたのち、一つの文章にまとめる手法だ。この手法を使って日本の伝統的な暮らしを記録し、持続可能な社会を考えるヒントを得ようと、2002年に高校生による聞き書き甲子園が始まった。開始当初は、きこりや造林手、竹籠づくりなど森林に関わる職種の「森の名手・名人」だけを対象に聞き書きを行ってきたが、回を重ねるうちに森とつながっている川や海の名人も加わり、これまで15年間で1500人の高校生が参加、1500にも及ぶ作品が生み出されてきた。
今年も3月18~20日に第15回フォーラムが開催され、会場となった東京大学弥生講堂には、参加した高校生、協賛団体のゲスト、一般参加者だけでなく、北海道や秋田県などからも名人が駆けつけ、300人のホールが満員になった。優秀作品賞・写真賞の発表や高校生に聞き書きを指導している作家の阿川佐和子さんの記念講演、森の名手・名人と高校生の対談などが行われた。2、3日目には聞き書き甲子園15周年を記念して、聞き書き甲子園をもとに作られたドキュメンタリー映画の上映やトークセッション、アメリカからのゲストによる記念講演など、高校生が主体となって運営された。
高校生と名人の対談では、優秀作品賞を受賞した高校生原田若奈さんと、北海道のアイヌ民族で民芸品作りの名人・遠山サキさんが登壇。遠山さんは幼少期、アイヌ民族というだけで差別され苦しい日々を過ごしたという自身の体験を話した。途中で声を詰まらせながらも、しかし、今まで注目されてこなかったアイヌの民芸品のことを聞きに、はるばる北海道まで自分を訪ねてきた原田さんの行動に感動し、感謝の言葉を何度も繰り返した。
感銘受け、行動起こす卒業生も
聞き書き甲子園に参加する高校生は、夏に聞き書きの研修を受けると、秋から冬にかけて各地の名人たちの仕事の現場に足を運び、名人の生き方を目の当たりにする。話を聞いた内容は方言で聞きづらい言葉もすべて文字に起こしたあと、一つにまとめる。2~3時間の会話を文字に起こすためには、その10倍の時間がかかり、作業には根気が必要だ。しかし、その大変さ以上に名人たちの生き方に感動した参加者は多く、卒業生の中には「森の共存ネットワーク」というNPO団体を立ち上げ、日本のために活動している人もいる。それだけ聞き書きを通じて得られた経験や感動は大きいようだ。
阿川さんが高校生にメッセージ「感情が動いた経験が社会で役に立つ」
--阿川佐和子さんの記念講演より
誰かから話を聞いたとき、自分が予測していることとはるかに離れたことを聞いたとき人は驚く。そんな思いもよらない宝ものを探るために一生懸命に話を聞くことは大事だけど、いくら探っても同じ経験をしていないからその本人の気持ちはわからない。だから「わかる、わかる」と共感せず、最初から「わかりっこない」という気持ちで、その人がどんな経験をしてきたのか考えをめぐらすことが大事。そうしているうちにその人に自分の経験を思い出して、「自分はこうだったからこの人もこう感じたのかな」と自分の感情が動く、その経験が社会で役に立つ。そういう経験を頭の引き出しに入れておくと、大人になった時に自分を支えてくれる。