「仕事、楽しめてる?」スーパー係長 中島賢一さん(2)5つの顔を持つ理由
目次
特別インタビュー/公益財団法人 福岡アジア都市研究所 調整係長 中島賢一さん
(2)一人5役 複数のポートフォリオから生み出される新しいこと
福岡市の「スーパー係長」こと中島賢一さんへのインタビュー。前回は、IT企業から全く異なる分野である行政(福岡県庁)に転向したユニークな経歴や、県庁に勤める中で感じた面白さについてお話いただいた。自分らしく仕事をするために、考え方を変える(マインドチェンジ)という工夫をしてきたといい、現在の福岡市に仕事の場を移してからも、さらに中島さんらしいスタイルで活躍。その分、増えていく仕事量をどのようにこなしているのか? 第2回では、その秘密をお話しいただいた。
日本初の「ゲーム・映像係長」に
――福岡市ではどんなお仕事を?
ゲーム・映像係という、当時、日本で唯一「ゲーム」という名前がついてるセクションに配属されました。福岡はゲームやアニメの会社が多いんですよ。福岡市の方々が事前に私のことを調べてくれていて、パカッとはまりましたね。当初はゲームのコンテストを開いて人材育成とか、アニメ作品を海外に売る仕事がメインだったんですけど、私の中では「それだけじゃないよね」という思いがありました。
それで自分はゲームやアニメを使ってお祭りや街をにぎやかにするのにゲームを連動させるということがしたいのだと気づきました。作品のセールスじゃなくてね。確かに民間にいるときも、ITというツールを使って何かを解決するっていうことをやっていたんですよね。せっかくゲーム・映像係長という面白いポストを用意していただいたので、それをやってみようと思いました。
それでまずやったのが、今まで開催していたゲームのコンテストの中身を変えました。全国に募集をかけて審査して、あとはトークショーみたいな内容を、もっと多くの人にゲームの良さを知ってもらうためにアイドルやコスプレのイベントも加えて、あとは会場を福岡で一番の商業施設であるキャナルシティでやることでイベント感を強く押し出すという立て付けに変えたんです。その結果、イベントに何万人というお客さんが来てくださったし、にぎやかしによる経済的波及効果もありました。
こうやって、何かと何かを掛け合わせて新しい価値を生み出すことをやってみた時に、何か自分の中で「カチ」っとはまった気がしたんですよね。「ああ、自分がやりたかったのはこれだ」と。市に来て1年目にこの経験ができたのが大きかったですね。
異なるものを掛け合わせて新しいものを生み出す
――1年目ですでにその実績はすごいですね。県での経験が生きたのでしょうか?
そうですね。来たばかりの時は、周りにやりづらさが出ないようにとは思いましたね。福岡市の人たちは私が持っている人脈を重要視してくれていました。それから、行政と民間の緩やかなつながり方のようなことにも興味を持ってくれていたので、それをいろいろな人に紹介することで、市の人たちとも仲良くなっていきました。私に対しても、「この人、官民両方のネットワークを持ってて、ちゃらんぽらんな感じだけど割と真実味のあることができそうだぞ」みたいな感じに思ってくれたんじゃないかと(笑)
そうするうちに、徐々に行政の中でも信頼を置いてもらえるようになりました。それから、外にネットワークを作り続けても、それを自分だけで保持していたら、「あの人がやってるから十分」ということになって内部の協力者が出てこないので、今はきちっと中の人たちに伝えるようにしています。私、自分の持っている情報は基本的に出し惜しみせずに、すべて出すようにしてるんですよ。出す以上に毎日大量の情報が入ってくるので、情報の棚卸をして自分では覚えていられないことは仲間たちに情報のストレージになってもらってます(笑)
――今は福岡市だけじゃなくて、福岡地域戦略推進協議会(福岡D.C.)にも所属されているんですか?
はい。福岡D.C.は、西日本鉄道や九州電力のような九州の大手企業さんが中心の経済団体で、行政と同じくすごく大きな組織なんですよ。今は、福岡D.C.のような組織にエンターテインメントをくっつけるみたいなことをやりたいなと思って動いてます。
私はいつもコンテンツ系の仕事のことを「ふりかけ」みたいなものだって言ってるんです。ふりかけがなくてもご飯は食べられるけど、でもあったら美味しいですよね。エンターテインメントも生活に必須じゃないし、なくても生きていけるけど、あったら嬉しい存在です。そう考えた時、福岡D.C.は言ってみれば、きっちりした懐石料理みたいな存在なんですよ。懐石料理はいいけど、でも時としてふりかけごはんが食べたいときもありますよね。
ここの事務局長も、私が違う価値観と違う価値観を掛け合わせて新しい価値を生み出すということをやってるのをご存知で、「中島さんが持ってるITやゲーム・アニメのコンテンツ系を注入してほしいのでD.C.に入りませんか」と声をかけてくださって。それで福岡D.C.に来ました。今はここで面白いものを集めて持ってくるという役割で、キュレーターという学芸員みたいな専門職を一人でやっています。
複数の「ポートフォリオ」を持つこと
――今は肩書、役割という部分での「ポートフォリオ」はいくつお持ちですか?
まず行政の仕事ですね。職務を全うするシビルサーバント(公務員)としての活動が1つ。もう1つは新しいものを作りたいという思いがあるので、新しいプロジェクトの仕掛人とか何でも解決屋みたいな立ち位置ですね。これは行政の仕事にすることもできますけど、そうせずに一個人としてやってきました。ただ最近はちょっと仕事の色を帯びてますけど。
3つ目がゲームかな。私、休日になると子どもを集めてポケモンとか遊戯王とかのトレーディングカードゲームのイベントを月1回くらいで主催してて、もう11年ほどやってるんですよ。これは仕事には関係ないけど、自分がやりたくてやってます。あともう一つが、最近お休みしていますが、ゲームの実況のユーチューバーでもあるんですよ。だからポートフォリオは一応4種類ですね。あと最近、大学の非常勤講師のお話をいただくようにもなりました。
――さらに増えて5つですか! 役割が多いと思うのですが、時間をどう工面されているんですか?
最近では「スーパー係長」ではなくて、「スーパーマーケット係長」って言ってます。何でもあるというのと、気楽に来てほしいと言うことで(笑)
時間の使い方は限りなくぱっつんぱっつんですね。それから、公私の境目は少ないです。例えば、より仕事的な部分だと、今日みたいにお話をさせていただいてますが、自分でも組織の機関紙を作らないといけないとか、そういう行政の仕事があります。また、自分が新しくプロジェクト化したいことは積極的に昼間の時間に打ち合わせして、スタートアップやコンテンツの文脈とか、ある程度のところまで下ごしらえをして、後はいろんな方にお渡しするという方法を取っています。できれば全部自分でやりたいけど、それはなかなか難しいので。もちろんお渡しした後は無関心ではなくて、時々、話を聞くようにしています。
ゲームのイベントは休日と夜や夜中にやってます。ユーチューブと動画撮影は大体朝4時くらい。だからあんまり寝てないですね。偉人たちって超働いてるじゃないですか。スペースX社のイーロン・マスクは週に100時間以上働いてるとか。ゲームの実況をするとしても、他にもすごいユーチューバーがいるので、ただの実況だけでは面白くないんですよ。それなので自分はこれを仕事側に持ってくるようにしています。違う領域に持っていく、つまりポートフォリオの中でクロスさせることで、これまでと違うことが生まれると思うんです。WEBデザイナーが、WEB関連じゃないイベントに行って、WEBデザイナーとして何ができるのかを考えてみると、そこで何か新しいことが見つかるはずなんです。だからポートフォリオはできるだけ違うジャンルを複数持っていた方がいいと思いますね。
(1)IT出身だから見えた行政のおもしろさ
(3)楽しくない時こそ、楽しむ