衛星「ひとみ」定説覆す 太陽と宇宙の元素組成が一致
宇宙航空研究開発機構(JAXA)は14日、昨年通信が途絶えたX線天文衛星ASTRO-H「ひとみ」の観測結果から、太陽を構成する元素の割合が、現在の宇宙全体を構成する元素の割合とほぼ同じであることが分かったと発表した。従来、異なるとされてきた定説を覆す結果だという。23日付の英科学誌『ネイチャー』に掲載された。
「ひとみ」は、米航空宇宙局(NASA)と欧州宇宙機関(ESA)などと共同でJAXAが主導で開発したX線天文衛星。昨年2月に打ち上げられた後、同年3月に通信が途絶え復旧を断念したが、重要な観測結果を残した。今回、当時ひとみがペルセウス座銀河団中心部を観測した結果を解析したところ、太陽の構成元素や元素量が、現在の宇宙の平均的な化学組成であることが示唆された。
ひとみが観測した「銀河団」は宇宙の平均の姿を知るカギ
ひとみが観測したような「銀河団」は100個以上の銀河からなり、数千万~1億度にもなる高温ガスを持つ。このガス量は銀河よりも多く、宇宙が誕生した当初にあった水素やヘリウム、その後に超新星爆発などによってできた酸素や炭素、ケイ素、鉄などの元素が含まれている。この銀河団ガスの元素量が分かれば、現在の宇宙の平均的な化学組成を知ることができる。
銀河団ガスを生み出す「超新星爆発」は、その1~4割が「Ia型」と呼ばれる。このIa型超新星爆発は、鉄属元素であるクロム、マンガン、鉄、ニッケルを主に生成することが知られている。
ひとみに搭載の検出器、高精度に測定 定説を覆す
ひとみは、太陽系から約2億4000万光年遠方にあるペルセウス座銀河団を観測。ペルセウス座銀河団は太陽系に近い銀河団としては最大級であり、高温ガスの温度は約5000万度にもなる。「ひとみ」に搭載されているNASAのゴダード宇宙飛行センターが開発した軟X線分光検出器は、高いエネルギ―分解能でケイ素、硫黄、アルゴン、カルシウム、鉄属元素(クロム、マンガン、鉄、ニッケル)の信号を検出。これまで分離できなかった鉄とニッケルの信号を分離し、微少量であるクロムやマンガンの信号を検出。元素量を高精度に測定することに成功した。測定された元素の比を求めた結果、ケイ素、硫黄、アルゴン、カルシウムや鉄属元素(クロム、マンガン、鉄、ニッケル)の比が全て太陽と同じであることが分かった。
これまでは銀河団の高温ガスの鉄属元素の組成は太陽の組成よりも高いと言われていたため、これを覆す結果であり、太陽の構成元素や元素量が、現在の宇宙の平均的な化学組成であることが分かった。
(画像提供:JAXA / NASA / Ken Crawford (Rancho Del Sol Observatory))
参考記事
X線天文衛星「ひとみ」、宇宙ゴミと衝突か?
(2016/04/01)