ボイジャー1号の延命に見込み 37年ぶりに目覚めたスラスター
史上最も遠いところを最も速いスピードで飛んでいる、米航空宇宙局(NASA)の探査機「ボイジャー1号」。打ち上げからすでに40年が経ち、地球との通信のために機体の姿勢を制御する装置「スラスター(噴射口)」も劣化が進んでいる。しかしはるか遠方にある探査機の部品を交換することはできない。このためNASAは、代替措置として37年もの間使用していなかった別用途のスラスターを活用することにし、このたび噴射テストに成功した。これによってボイジャー1号は寿命が延長できる見込みだ。
太陽の影響圏を離れた唯一の人工物「ボイジャー1号」
NASAの探査機ボイジャー1号には、4台のバックアップ用スラスターが搭載されているが、これらは1980年以来休眠状態にあった。NASAは1日、このスラスターの噴射テストに成功。米カリフォルニア州パサデナにあるNASAのジェット推進研究所(JPL)でボイジャーのプロジェクトマネージャーを務めるスザンヌ・ドッド氏は、「37年間使用していなかったスラスターが正常に機能することを確認できたので、ボイジャー1号の寿命を2年から3年延長できるだろう」と述べた。
ボイジャー1号は2012年8月に太陽の影響圏から独立を果たし、恒星間空間を飛行する唯一の人工物だ。1977年に打ち上げられて以来40年、姿勢制御スラスターを用いて通信用のアンテナが地球を向くように機体を制御してきた。ボイジャーの運用チームは2014年、ボイジャー1号の姿勢制御スラスターが劣化してきていることに気づいた。しかし、地球から210億kmも離れているため、部品交換することもできない。そこで、JPLで一連の推進エキスパートを集めてこの問題の解決策を検討し、37年間眠っていた軌道修正誘導(TCM)用のスラスターを活用するという解決策にたどり着いたという。
「ボイジャーの飛行チームは、何十年も前のデータを掘り起こし、時代遅れのアセンブラ言語でプログラムされたソフトウェアを調べ、スラスターを安全にテストできるようにしました」とJPLのチーフエンジニアであるクリス・ジョーンズ氏は述べている。
37年ぶりでも動作良好 2号にも適用へ
ミッション初期には、ボイジャー1号は木星と土星、そしてそれぞれの主な衛星のそばを縫うように飛行した。正確に飛行するために、宇宙船の裏側に位置するTCMスラスターを使用した。しかし、ボイジャー1号が土星に接近した1980年11月8日以降、TCMスラスターを使用する機会はなかった。TCMスラスターは軌道を修正誘導するための連続的な噴射で使用され、機体を姿勢制御するための短時間の間欠的な噴射に使われたことはなかった。
11月28日に、ボイジャー1号は37年ぶりに4つのTCMスラスターを作動させ、0.01秒刻みの間欠噴射で機体制御できるかのテストが行われた。光の速度で伝わる電波で19時間35分かかって、カリフォルニア州ゴールドストーンにあるNASAのアンテナに結果が届き、TCMスラスターが完璧に働いたことが確認された。このテスト成功を受けて、来年1月に姿勢制御をTCMスラスターに切り替える計画だ。ボイジャーはスラスターごとに1つのヒーターをオンにしなければならないので、ヒーターを操作する電力がなくなれば、これまで通りの姿勢制御スラスターでの制御に戻すという。
スラスターのテスト結果が良好だったため、運用チームはボイジャー1号の兄弟機であるボイジャー2号のTCMスラスターについても同様のテストを行うと見られる。もっとも、ボイジャー2号の姿勢制御スラスターは、ボイジャー1号ほどには劣化していない。ボイジャー2号も、数年以内には恒星間空間に到達する見込みだ。
画像提供:NASA