羽生氏と井山氏が受賞 「国民栄誉賞」とは【ニュースのコトバ解説】
昨年12月27日、将棋棋士の羽生善治氏と囲碁棋士の井山裕太氏に国民栄誉賞が贈られることが発表されました。羽生氏は将棋で初めて永世7冠を達成、井山氏は囲碁で初の2度にわたる7冠独占を果たしました。将棋および囲碁においてどちらも棋士が国民栄誉賞を受賞するのはこれが初めてとなります。これまでの国民栄誉賞の受賞者には、オリンピック選手やプロ野球選手など、スポーツ選手が多かった印象がありますが、そもそも国民栄誉賞とは何なのでしょうか。また、どのような功績に対して贈られるものなのでしょうか。今回はこの「国民栄誉賞」について解説します。
国民栄誉賞とは
国民栄誉賞は「広く国民に敬愛され、社会に明るい希望を与えることに顕著な業績があったものについて、その栄誉を讃えること」を目的としており、スポーツや文化活動など、さまざまな分野において輝かしい功績を残した人に対して内閣総理大臣から贈られる賞となっています。
表彰時期は特に定まっておらず、表彰に値する人がいるときに随時検討・表彰されます。故人も対象となっており、今まで本人の没後に授与されたケースには歌手の美空ひばりさん、俳優の渥美清さん、漫画家の長谷川町子さんなどがいます。また団体での受賞もあり、女子サッカー日本代表のなでしこジャパンはチームでの受賞となりました。
国民栄誉賞が出来た経緯
記念すべき国民栄誉賞第1号は、プロ野球選手の王貞治氏(1977年受賞)ですが、実はこの国民栄誉賞は、王氏のために作られた賞でもありました。1977(昭和52)年9月2日、王氏が本塁打世界新記録という快挙を達成したとき、当時の総理大臣だった福田赳夫氏が、王氏のこの前例のない功績を称えるために創設したのが「国民栄誉賞」だったのです。このため、今も受賞のための厳密な基準はなく、「素晴らしい功績を残した人」に対して柔軟に対応できるようになっています。
ちなみに、王貞治氏は台湾国籍であり、歴代でも唯一の外国籍者の受賞者となっています。国民栄誉賞の受賞に当たっては、国籍は関係ないとされています。
国民栄誉賞では何が授与されるのか?
国民栄誉賞を受賞すると、賞状と盾が送られます。また、記念品を送られる場合もあります。制度的には金一封もあり得るのですが、現在のところ記念品のみが贈呈されています。記念品の内容は人によってさまざまで、女子レスリングの吉田沙保里氏は真珠のネックレスでしたし、2013年受賞の長嶋茂雄氏と松井秀喜氏は野球にちなんで黄金のバットを送られました。一方、文化功労者や人間国宝と違い、年金の優遇はありません。
過去の辞退者
そんな名誉ある国民栄誉賞ですが、実は過去には受賞を検討されたものの、自ら辞退をした人が3人います。プロ野球の福本豊氏、作曲家の古関裕而氏(遺族が辞退)、そしてプロ野球のイチロー選手もその一人です。イチロー選手は2001年と2004年の2度検討されましたが、2度とも断っています。その理由を彼は「まだ現役で発展途上の選手なので、もし賞をいただけるのなら現役を引退した時にいただきたい(2001年)」、また「今の段階で国家から表彰を受けると、モチベーションが低下する(2004年)」と話しています。
過去の受賞者一覧(受賞年順敬称略)
王貞治(プロ野球選手)、古賀政男(作曲家)、長谷川一夫(俳優)、植村直己(登山家)、山下康弘(柔道選手)、衣笠祥雄(野球選手)、美空ひばり(歌手)、千代の富士(相撲力士)、藤山一郎(歌手)、長谷川町子(漫画家)、服部良一(作曲家)、渥美清(俳優)、吉田正(作曲家)、黒澤明(映画監督)、高橋尚子(陸上競技選手)、遠藤実(作曲家)、森光子(俳優)、森繁久彌(俳優)、なでしこジャパン(女子サッカー日本代表チーム)、吉田沙保里(レスリング選手)、大鵬(相撲力士)、長嶋茂雄(プロ野球選手・監督)、松井秀喜(プロ野球選手)、伊調馨(女子レスリング)
(写真はイメージ)