人気タレントの依存症報道は氷山の一角なのか?
スキャンダルとして報道されて知る芸能人のアルコールおよび薬物依存症の問題は、しばしば私たちを驚かせます。なぜ、その世界で成功しているはずの人気タレントが依存症を患ってしまうのでしょうか? 今回はこれについて、少し掘り下げていきます。
解説:垣渕洋一 成増厚生病院・東京アルコール医療総合センター長 専門:臨床精神医学(特に依存症、気分障害)、産業精神保健 資格:医学博士 日本精神神経学会認定専門医 |
「なりたい自分」になるために手軽な‟クスリ“
報道で明るみに出る芸能人の依存症問題は、おそらく氷山の一角だろうと思っています。テレビの本番や舞台に上がる際にハイになりたい、不安を鎮めたい、終わった後にクールダウンしたいなど、気持ちをコントロールして「なりたい自分」になるためにクスリ(アルコール、医師が処方する精神安定薬、その他の薬物)は手軽で便利です。
駆け出し芸能人の場合、ある1回のチャンスを生かせるかどうかで、その世界で上に行けるか行けないかが決まる状況もあります。ここ一番という時、クスリを使いたくなるのはある意味、当然のこととも言えます。
ストレスと誘惑の多い世界
人気が出てしまうと、一挙一動をカメラに追いかけられ報道される毎日は、その人が普通の神経の持ち主だったら耐えがたいものでしょう。また、1回1回の舞台やテレビ番組出演のギャラが巨額になると、穴をあけた時の違約金も巨額です。体調を崩しても、クスリで何とか持たせて出ることさえ強いられるようになります。さらに成功しても、浮き沈みの多い世界なので、「いつ売れなくなるか」という不安にかられる人も多いといいます。また、人気が出ると、その分人づき合いも増え、酒席も多くなります。「(アルコールも含めて)クスリは駄目だ」と直言してくれる人はいなくなり、逆に違法な薬を手に入れてくれる人すら群がってくることもあります。
隠されることが多い依存症
アルコール依存症の夫が、酒が残ってしまって月曜日に出勤できないとき、キャリアに傷がつくことを恐れる妻が職場に電話して、「夫は声がでないので代りに電話しました。風邪で寝こんでいるので休みます」というような嘘をつく例はいくらでもあります。ましてや人気のある芸能人が酔って乱行を働いても、酒臭い状態で番組収録現場に現れても、芸能人としての「商品価値」が高いと、周囲はこういった事態を黙認し、問題をもみ消そうとします。アルコール依存症の場合には、精神科に二次性うつ病(大量飲酒によって起きるうつ病)で受診し、内科にアルコール性肝炎で入院するというパターンがあり、依存症の診断だけはつかないように画策します。
以上のような状況が往々にしてあるので、こと有名人になると依存症の問題が公に発覚するのは氷山の一角であると推測できます。またアルコール依存症の場合は、依存症が表向き発覚する前にうつ病が重度になって自殺してしまったり、酩酊して事故を起こしたり、肝不全で亡くなるというケースも多いと思います。
(写真はイメージ)
*編集部注
アルコールは医学的に見て嗜好品ではなく、作用も副作用もある薬であると認識されています。当コラムではその認識に基づいた表現を用いています。詳細は下記のリンクをご参照ください。
アルコールとの正しい付き合い方 ~「酔い」の4段階を知ろう!【前編】(2018/04/27)
参考記事
タレントの飲酒事件からアルコール依存症を解説!(1)(2018/05/06)
タレントの飲酒事件からアルコール依存症を解説!(2)(2018/05/07)