ありふれた元素だけで人工光合成を実現

ありふれた元素だけで人工光合成を実現

東京工業大学の石谷治教授らの研究グループは、太陽光で二酸化炭素(CO2)を有用な炭素資源である一酸化炭素(CO)へ選択的に変換できる新しい光触媒を、地球上に豊富に存在する炭素、窒素、鉄といったありふれた元素だけで作成することに成功した。貴金属や稀少金属をまったく使っていないにも関わらず、そうした金属を用いた従来の光触媒と同等の性能を示すという。米国化学会誌『ジャーナル・オブ・ジ・アメリカン・ケミカル・ソサエティ」に速報として12日に掲載された。

近年、光触媒を用いてCO2を資源化する「人工光合成」技術の開発が世界中で行われている。実用化できれば、地球温暖化の主因とされるCO2を、太陽光をエネルギー源に有用な炭素資源へと変換できるようになる。しかし、これまで報告されている高活性の光触媒は、ルテニウムやレニウム、タンタルなどの貴金属や稀少金属が用いられてきた。ばく大なCO2量を考えると、地球上に多量に存在するありふれた元素だけで構成される新たな光触媒が求められていた。

石谷教授らは、科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業(CREST)、「新機能創出を目指した分子技術の構築」における支援を得て、パリ第7大学のマーク・ロバート教授の研究グループと共同で研究に取り組んだ。その結果、炭素と窒素だけで構成された有機半導体を鉄錯体と組み合わせて光触媒として用いることで、可視光かつ常温常圧という条件でCO2を高効率でCOに変換し、資源化できることを見いだした。性能の指標となるCO生成におけるターンオーバー数、外部量子収率、CO2還元の選択率は、いずれも貴金属や稀少金属錯体を用いた従来の光触媒とほぼ同程度であり、これまでに報告されていた貴金属や稀少金属錯体を用いない光触媒に比べると10倍以上高かった。

今回の研究から、炭素、窒素、鉄といった地球上に多量に存在する材料群を用いても、太陽光をエネルギー源としたCO2の資源化を高効率に達成できることを初めて実証した。今後は、光触媒としての機能をさらに向上させるとともに、地球上に多量に存在する水を用いた光触媒と組み合わせることが課題となる。

画像提供:アメリカン・ケミカル・ソサエティ