1万4400年前のパンを発見、先史時代の食生活を知る手がかりに
新石器時代に農耕が始まるよりも更に4000年前、現在のヨルダン北東部に定住しながら狩猟採集生活を送っていたナトゥフ文化の遺跡で、今から1万4400年前の焼いたパンの痕跡が見つかった。このパンを生産するため、穀物の野生種や植物の
パンは現代世界で最も重要な食糧の一つと言える。その起源は、今から9100年前以降にヨーロッパと南西アジアで、新石器時代に栽培された植物種を収穫した本格的な農業共同体の誕生に関連づけて考えられてきた。今回、コペンハーゲン大学の考古学者がヨルダン美術館の支援を受け、2012~2015年の間に4つの場所で発掘を行なった。そのうち、Shubayqa 1は今まで南西アジアで発見された最古のナトゥフ文化の遺跡の一つで、中心には連続した2つの暖炉がある。最も古い暖炉は平らな玄武岩でできた直径約1mの環状構造。暖炉の内容物はそのまま残され、続いて建物を覆う厚さ約0.5mの堆積物で埋められた。住人たちはほぼ同じ場所に、サイズと形が非常に似ている新しい暖炉を建てた。この暖炉の内容物も、放棄後にその場で放置された。暖炉内の炭化した植物の放射性炭素年代の測定結果は、ナトゥフ文化の初期に対応する1万4400~1万4200年前付近を示していた。
暖炉の内容物の分析結果から、「クラブラッシュ」という植物の塊茎が最も多く含まれていた。その他の植物としては、アブラナ科、小粒の豆類、野生の小麦、大麦、およびオート麦が見つかった。これらに加えて、2mm以上の塊状の焦げた食物が含まれていた。植物粒子および空隙の推定、および類型分類に基づいて、合計24点がパン製品として分類された。それらの厚みが25mm未満であったため、おそらくピタパンのような無発酵の平たい円形のパン製品だったようだ。新石器時代とローマ時代のヨーロッパとトルコのいくつかの遺跡で、フラットブレッドとして識別されるものと一致している。また、暖炉で見つかった野生小麦と大麦の穀粒の約46%が、炭化の前に粉砕されていた。これらは一般的には、脱穀または小麦粉製造などの食品生産活動に関連している。
先史時代の遺跡に保存された食物から、他の手段では非常に困難な人間の食生活や調理技術についての直接的かつ詳細な情報を得ることができた。狩猟採集時代と農耕時代の食料消費を総合的に評価することで、時代の移行を理解するユニークな洞察を得ることができる。
画像提供:PNAS