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10代が陥りやすい「ゲーム依存症」はなぜ危険なのか? 前編

10代が陥りやすい「ゲーム依存症」はなぜ危険なのか? 前編

10代の子どもたちが陥りやすく、特に夏休みに家でゲームばかりやって過ごしてしまうことで発症する危険のあるゲーム依存症。このゲーム依存症が、WHOで「ゲーム障害」として疾病認定される動きが出ています。スマートフォンなどのゲームのやりすぎが、健康や生活に悪影響を与えているとして、これが正式に認定されれば、麻薬使用やギャンブル常習行為の項目に加えられることになります。ゲーム依存症の何が問題視されているのか? 専門医に解説いただきます。

解説:垣渕洋一
成増厚生病院・東京アルコール医療総合センター長
専門:臨床精神医学(特に依存症、気分障害)、産業精神保健
資格:医学博士 日本精神神経学会認定専門医
ゲーム依存症が他の依存症と大きく異なる点

一般に、どんな依存症も低年齢で発症するほど治療後の回復が困難な予後不良になるのですが、ゲーム依存症の特徴のひとつが、他の依存症に比べて圧倒的に低年齢で発症する点です。アルコール依存症の発症が最も多い年代が40~60代、覚醒剤など違法薬物依存症が30代であるのに対し、ゲーム依存症は10代で、このことは非常に大きな問題をはらんでいるのです。

子どものゲーム依存症が顕在化するタイミングで多いのが、夏休みなど長期の休み明けです。子どもたちが休み中はゲームばかりやっていても、親としては「学校が始まったら控えるだろう」と考えます。ところが学校が始まっても、昼夜逆転してゲームを続け、このために朝起きられなくなり、登校しない日が続くといったケースが出てきます。そのとき、「うちの子は依存症かもしれない」と親が危機感を持つようになります。

外来に来た子ども本人に受診の動機を聞くと、「学校に行くか、病院に行くか、どちらか選べと親に言われて、病院を選んだ」といった回答がよく返ってきます。ゲーム依存症は他の依存症に比べて、「このままではまずい」、「何とかしたい」という意識が当人に希薄なケースが多いため、治療を続けることが極めて困難な場合が多いのが特徴です。

10代で「ゲーム依存症」になることの怖さ

10代でゲーム依存症を発症することがいかに危険なのか、その理由を神経科学の知見と照らし合わせてお話ししたいと思います。

脳細胞の数は出生時が一番多く、年齢と共に減少していきます。その際、使われていない脳細胞は死に、使っている脳細胞は残ります。ちょうど、木を大きく育てるために木の枝を剪定せんていするように、余分なものを切ることで、成長するところに必要なものが行き渡るようにするというメカニズムで、これは「脳細胞の刈り込み」と呼ばれています。また、木の枝が剪定されることで色々な形に作られるように、脳も刈り込まれることによって色々な才能を発揮するようにつくられます。

この脳細胞の刈り込みは20歳前後で完了します。たとえば子どもが外国語を早く習得できるのは、言語を担当する脳細胞の刈り込みがまだ終わっていないためで、このことが新しい言語の習得を容易にしています。逆に20歳を過ぎると、すでに習得している言語以外を担当できる脳細胞は刈り込まれてしまっているので、外国語を取得する速度が著しく遅くなります。言語以外の学習においても同様のことが言えます。

つまり10代は、自分にとって有益なことを早く正確に習得できる学習の「黄金の時代」なのです。そのため、この時期にゲームにはまってしまうと、ゲーム以外の他の大切なことを習得することができないまま「脳細胞の刈り込み」が終わってしまう危険があります。治療を経て、依存症から回復できたとしても、すでに過ぎ去った「黄金の時代」を取り戻すことは不可能でしょう。

(中編に続く)

(写真はイメージ)