10数年の論争に決着 火星で消えた炭酸塩の謎に光
10数年に渡って論争が続いていた地球と火星の地層に含まれる「球状鉄コンクリーション」の成因が、このほど名古屋大学博物館の吉田英一教授らによって解明された。同研究グループは、「太古の火星表層にあった炭酸塩が、酸性流体によって溶けてしまった」ことを実証する、初の地質証拠を発表した。米国科学雑誌『サイエンス・アドバンシス』電子版に6日付で掲載された。
米ユタ州と火星に同様の物質
米国ユタ州のナバホ砂岩には、「鉄コンクリーション」と呼ばれる丸い粒が大量に含まれており、これと非常に似た、酸化鉄を主成分とする大量の丸い粒が火星にも存在していることが明らかになっている。ナバホ砂岩の鉄コンクリーションは数ミリ~数センチの大きさで内部に砂が詰まっており、周りは褐鉄鉱や赤鉄鉱の殻からなっているもの。これと同様のものが2004年、NASAの火星探査車「オポチュニティ」によって、火星のメリディアニ平原の地層中から発見された。大きさは5mmくらいで、黒色~青色であることから「ブルーベリー」と名付けられた。
名古屋大学博物館の研究グループは、ユタ州で鉄コンクリーションが含まれる地層を調査。鉄コンクリーションが、もとは炭酸カルシウムコンクリーションであり、酸性の地下水との化学(中和)反応によって、段階的に鉄コンクリーションに置き換わったことを明らかにした。さらに同様の鉄コンクリーションをモンゴル・ゴビ砂漠の地層からも発見、これも同じメカニズムで形成されたことを確かめた。今回明らかとなった地球の鉄コンクリーションの成因は、様々な状況証拠から火星の鉄コンクリーション(ブルーベリー)の成因にも適用でき、ブルーベリーも元は炭酸塩コンクリーションであった可能性が高いと見られている。
火星には生命が存在している?
現在の火星は極寒(平均気温が約マイナス50℃)で乾いた星だが、火星の表層地形には川が流れていた痕跡が多く見られる。NASAが何年にも渡って火星探査を続けてきたのも、少なくとも過去には火星でも温暖湿潤な環境があった可能性が高く、生命が存在していた(もしかすると現在も生息している)可能性があると考えているためだ。太古(約38~40億年前)の火星表層が温暖湿潤であったのは、温室効果ガスである二酸化炭素の厚い大気があったためと考えられている。それならば、地球上と同様に炭酸塩の堆積が起こったはずだが、現在の火星表層には炭酸塩がほとんど見つからないという。今回の発見によって、炭酸塩がほとんど見つからない理由が、「酸性の水によって溶けてしまったから」とする説が有力になってきた。このことは、約32~37億年前に酸性流体が火星表層を覆ったことを示す証拠とも矛盾しない。火星のブルーベリーは、火星の過去(約32~40億年前)の環境変遷を記録した遺物といえる。
2020年にNASAは、新しい火星探査車マーズ2020を火星に送り込むことを計画している。このマーズ2020で探査候補地として選定されたイェゼロ・クレーターは、35億年前の酸性流体による影響が小さく、炭酸塩がわずかながら残されている可能性の高い場所だ。マーズ2020が炭酸塩を発見することができれば、その表面には酸化鉄の皮膜が形成され、鉄コンクリーションに置き換わっている様子が見つかるかもしれない。火星のブルーベリーが本当に炭酸塩コンクリーション起源だということを解明することが期待されている。
画像提供:名古屋大学
参考記事
2020年の火星探査機の着陸地点めぐり、NASAがワークショップ開催(2018/10/19)