スマート農業は日本の農業を救えるか?【ニュースのコトバ解説】
テレビドラマ「下町ロケット」(TBS)でも取り上げられて注目されている農業用トラクター。農業用トラクターは耕耘、播種、収穫まで、あらゆる農業生産を助ける大型機械で、近年、自動運転の実用化に向けて急速に開発が進んでいる。今月、自動操舵技術を取り入れたロボットトラクターが検証段階を終え、大手農機メーカー各社から一般に販売されたことで、農業トラクター業界は大きな局面を迎えている。
自動操舵の農機具は、農業従事者激減の救世主となるか?
2016年に日本政府が発表した「日本再考戦略2016」において、スマート農業を実現するために、「2018年までに有人監視下での場内無人自動走行システムの市販」そして「2020年までに遠隔監視による無人走行システムの実現」が明記されていた。今年に入って、大手農機メーカーが次々と自動運転トラクターの販売を始めたことで、その1つ目の目標は達成されつつある。
農機メーカー大手の井関農機株式会社は12日、ロボットトラクターのモニター販売を開始。これはGNSS衛星を利用した自動操舵技術で、人が監視している状況において、無人ロボットトラクター1台による操作が可能だ。また有人トラクターと無人ロボットトラクターによる同時作業も行うことができる。さらに、ヤンマーアグリ株式会社も10月から自動運転トラクターの販売を開始、2019年2月には自動直進と自動旋回機能を装備した田植機を販売すると発表している。株式会社クボタは2017年からすでに自動運転トラクターを製品化し、一般の農家への普及に力を入れている。
自動化の実現を支えるポイントの1つとなるのは、正確な位置情報だ。以前は米国のGPSだけを使っていたところから、現在はロシアや欧州の衛星も使ったGNSS(全球測位衛星システム)の利用により、位置精度が向上した。またリアルタイムで位置補正しながら走行し、作物を踏みつぶさない誤差数センチで走ることもできるようになったという。さらに今年11月1日から実利用が始まった準天頂衛星みちびきによって、日本における位置情報の測位精度の向上が見込まれることから、自動操舵を支える環境は一層整いつつある。
農業分野自動化の影に高齢化問題
ところでなぜ今、農業分野では自動操舵が注目されているのだろうか。現在、日本の農業就業人口は平均年齢が66.7歳、農業就業人口の約60%が65歳以上を占めている。このままでは、あと10年後には年齢的に引退する農業従事者が増加し、農業従事者が激減することが予想されている。さらに後継者がいない農家が多く、長年培われてきた栽培技術が継承できない状況も深刻だ。引退する農家から農地を預かり栽培を継続する集落営農組織や農業生産法人もあるが、多くの農地を集積し、大規模に生産を行う上でも作業の効率化、自動化は至上命題ともいえる。
また、日本のみならず海外でも自動運転技術の導入は進んでいる。北海道に拠点を構える株式会社農業情報設計社の開発したGPSを使ってトラクターの直進運転をサポートするスマートフォン用アプリ「AgriBus-NAVI(アグリバスナビ)」は、全世界で4万2000件ダウンロードされ、同様のアプリの中で世界シェア1位を獲得している。自動操舵のニーズは人口増加による食料問題に直面している世界でも同様だ。
先端技術導入と日本の農業の未来
農業界における自動運転の技術の広がりはトラクターだけではなく、自動草刈りロボットや農薬散布ドローンの自動運転の解禁などにも見られ、自動化はますます加速している。自動運転技術が実用化されるときに、一番問題とされるのは安全性だ。日本では2017年に策定された「農業機械の自動走行に関する安全性確保ガイドライン」によって、農業者や第三者が事故に遭わないような対策を行い、慎重に開発・運用を進めているという。
農業は人間の食料を生産する欠かせない分野。農業従事者の数が減っても食料生産を減らさないためには、先端技術を農業分野に取り入れることは不可避だだ。過去、農業機械や農薬の開発によって手作業だった草取りや耕耘にかける時間が大幅に減少し、農作業が劇的に楽になった歴史がある。今は自動運転技術による生産性の向上によって、また農業の歴史が大きく変わる時ともいえるだろう。今は農業の現場にとって目新しい技術が、未来には当たり前になっている日も、そう遠くないかもしれない。
(写真はイメージ)