ラニーニャが日本の大気汚染を防いだ? 大陸からの越境汚染が減少
国立環境研究所は21日、近年の中国における急速な経済成長により、1990年以降から悪化の一途をたどっていた日本の大気質が、2008年以降改善していたと発表した。これはラニーニャ的な気候が続いたことにより、アジア大陸からの越境汚染が減少したためと考えられ、今後の気候変動とアジアの越境汚染の関係が注目される。
「悪いオゾン」、中国で増加も日本では改善
オゾンは有害な紫外線をカットする役割で知られる。地上15~50kmの成層圏にあれば紫外線を防いで地上の動植物に有益な役割を果たす一方で、地上およそ10km以下の対流圏にあるときは二酸化炭素やメタンに続く温室効果ガスとして悪影響を及ぼす。
日本では従来、この対流圏オゾンの濃度を決める主な要因が、風上にある中国から来るオゾン前駆体(窒素酸化物や揮発性有機化合物など、オゾン生成のもととなる物質)、特に窒素酸化物の変動にあると考えられてきた。実際、1990年代から日本国内の中国由来のオゾン濃度は、中国の急激な経済発展に伴って急激に増加していた。しかし2008年頃からは、中国の大気汚染悪化は進んでいるにもかかわらず、日本国内では大気質の改善がみられており、この原因は不明だった。
ラニーニャが風を弱め、汚染空気を止めた
研究チームは、オゾン濃度減少の原因解明のため、世界で最も汚染が激しい地域の一つである中国中東部から日本への空気塊の輸送量を推定。長野県白馬村にある国設八方尾根酸性雨測定所で観測されたオゾン濃度データや気象データなどをもとに、過去の中国からの空気塊の輸送量を検証したところ、2004年から2007年にかけては空気塊の輸送量が多く、日本のオゾン濃度も高かったことが分かった。
しかし、2008年以降は中国中東部からの空気塊の輸送量は減少した。この原因として、2008年から2013年にかけてラニーニャ的気候が続いたことで、大陸から日本へ向かう風が弱められたためだという。それに伴って中国からオゾンやオゾン前駆体を多く含む汚染空気塊の輸送が減少し、太平洋側からの清浄な空気が増加した。これにより、日本周辺のオゾン濃度が減少したと考えられている。
もし、このような気候パターンが発生していなければ、日本のオゾン濃度は中国の窒素酸化物の排出量増加と共に増加し続けていたかもしれない。研究チームは「大気汚染の予測や対策を立てる上で、汚染物質の排出量変動だけではなく、気候変動も考慮することが重要」としている。
(写真はイメージ)