春を告げるソルブのイースターエッグ・マーケット 後編
イースターエッグづくりは営利ではない
大柄な体躯のライナー・グローザさんの手の中にあると、イースターエッグは本当に小さく見える。そして、その繊細な手仕事から生み出されるイースターエッグの美しさは、まさに神業だ。そしてもっと驚くべきことに、2時間半かけて完成した芸術品のようなイースターエッグ1つの値段はわずか14ユーロ(約1736円)。時給に換算しても約700円という、よく考えたらまったく割に合わない仕事だ。
芸術品のようなイースターエッグを手仕事だけでつくり出すグローザさん
「イースターエッグ作りは、趣味でやっていることだからね」
とグローザさんは笑う。イースターエッグの絵付けは、そのための専門資格があるわけでもなく、特別な職業訓練システムがあるわけでもない。しかしこの水準の高さは、「ただの趣味」の域をはるかに超えていると言わざるを得ない。
バティック法と呼ばれる蝋染めの手法でイースターエッグの絵付けをしているフリーデリケ・ツォーベルさんは、自宅で絵付けを教えたり、イースターエッグづくりを生業にしているという。しかし、イースターエッグ1つに対して得られる利益は1ユーロ程度だ。
蝋を使ったバティック法でつくられたツォーベルさんのイースターエッグ
絵付けワークショップに挑戦!
イースターエッグ・マーケットでは、実際に絵付けを体験できるワークショップも行われていた。筆者も子どもたちに混ざってこれに参加、バティック法のイースターエッグづくりに挑戦した。溶かした蝋で卵の殻に模様をつけた後、染料に卵を浸して色を付ける。この作業を何段階か繰り返し、複数の色を重ねていくというやり方だ。最後は熱を加えて蝋を溶かしてふき取り、完成させる。この作業をやり始めると、どんどんクセになるおもしろさで、利益を考えず「趣味でやっている」というイースターエッグ職人の気持ちが少し追体験できた。そして、出来上がった自分の作品を見て、改めて彼らの仕事の偉大さを思い知った。
お金に換算できない伝統文化の尊さ
イースターエッグ・マーケットが開催されたソルブ・ハウスの会場には、このほかにも趣向を凝らしたさまざまなイースターエッグが並んでいた。その様子はまるで、色とりどりの花々が咲き乱れているかのよう。まだ肌寒い3月中旬の日だったが、会場には春の訪れを予感させる明るい太陽の光が差し込んでいた。
色とりどりのイースターエッグは、春が訪れる喜びを運んでくるかのよう
ドイツという大国の中で、独自の文化と言語を守って生きてきたソルブ人たち。イースターエッグづくりの文化が注目され、観光名物ともなっている一方で、彼らは無欲に、そして自分たちの喜びとしてイースターエッグをつくり続けている。自分たちの国を持たない少数民族ソルブ人が、静かな誇りとアイデンティティをもって何世紀にもわたり存在し続けてきたその強さを、垣間見たような気がした。
ソルブ・ハウスのステンドグラス。窓ガラス中央に描かれた菩提樹の木はソルブのシンボル
冒頭の写真は、2時間半かけてスクラッチ法で完成させる藍色のイースターエッグ
in association with the GNTB/協賛:ドイツ観光局
Special thanks to: Tourist Information Bautzen & Haus der Sorben/協力:バウツェン観光局、ソルブ・ハウス
参考記事
春を告げるソルブのイースターエッグ・マーケット 前編(2019/03/23)