歓迎会シーズン、お酒に飲まれないための基礎知識 前編
解説:垣渕洋一 成増厚生病院・東京アルコール医療総合センター長 専門:臨床精神医学(特に依存症、気分障害)、産業精神保健 資格:医学博士 日本精神神経学会認定専門医 |
3~4月は、歓送迎会や花見など、年末年始に次いで飲み会が多いシーズン。酒好きにとっては楽しい反面、飲み過ぎが気になる季節でもあります。一方、アルコールが苦手な人、下戸にとっては辛い季節です。
健康への影響を考えると、極力飲まないに越したことがないのがアルコールですが、日本の飲酒文化の中では、それをまったく避けて通ることは難しいでしょう。そこで今回は、酒の席が多い季節に心得ておくべき、アルコールに関する基礎知識と注意点を紹介します。
絶対に行なってはいけないこと
アルコールは違法薬物とは異なり身近にあるものなので、その危険性がしばしば忘れられていますが、未成年が飲酒すること、または飲酒させること、そして運転前の飲酒は法律で禁止されています。
さらに法律では禁止されていませんが、医学的に絶対に行なってはいけないことがあります。それは、「人にアルコールを無理やり飲ませること」と、「短時間に一気飲みなどで大量の飲酒をすること」です。この2つは、死に直結する危険があるので、絶対に行なってはいけません。酩酊期(呂律が回らず、歩けば千鳥足)の血中アルコール濃度は0.10%ですが、これの4倍の0.40%になっただけで呼吸停止して死ぬことがあります。
呼吸停止になる危険は、アルコールに脳が慣れていない人ほど高く、大学時代は飲み会に参加していなかったけれど、就職して断れずに参加した新入社員などが、特にこの危険にさらされる場合が多いです。一気飲みの強要など無理やりに飲ませることは、1990年代にアルコール・ハラスメント、「アルハラ」と命名され、これに対しては様々な啓蒙活動が行われていますが、いまだにアルハラにより命を落とす人は絶えません。
また、妊娠中も飲酒は厳禁。胎児の神経発達に悪影響があるからです。実は妊娠初期ほど影響は強いので、妊娠の可能性がある場合も飲酒はしないに越したことはありません。
健康リスクのない「適量」とはゼロのこと
医学における最新の研究結果によると、健康損失を最小限に抑えるための「適量」はゼロとなっています。世界でも権威ある英医学誌「ランセット」に掲載されたマックス・グリスウォード博士らによる研究では、アルコール消費と健康への影響に関する694データベース、アルコール使用のリスクに関する592の研究をメタ解析(多くの研究結果を統合し、より高い見地から分析する)した結果、以下のような結論が導き出されています。
・総死亡(特にがん死亡)のリスクのレベルは飲酒量が多いほど増加する。
・健康被害を最小限に抑える飲酒量はゼロである。
・これらの結果は、国・地域単位でアルコール政策によって飲酒量を抑えるためのはたらきかけが必要である可能性を示唆している。
一方で、「全く飲酒しない人より、ある程度の量を飲酒する人の方が、病気による死亡率が低い」という研究結果がかつて複数あり、これが「適度の飲酒は体によい」ことのように曲解されていました。横軸を飲酒量、縦軸を病気による死亡率とすると、Jの字のようなグラフ(Jカーブ曲線)となり、「まったくアルコールを飲まない」人の死亡率が「少量飲む人」よりも高いことがその根拠となっていました。しかしこれもメタ解析をしてみると、何か重度の病気を持っているために禁酒せざるを得ない人も研究対象の中に入っており、つまり飲酒以外の死亡要因を抱えた人が対象者として選ばれていたため、その結果、誤った結論が導き出されていたことが判明しました。
以上のような要因からも、飲酒をする以上、健康への影響にノーリスクはなく、いかにしてローリスクに抑えながら楽しむかが重要となります。
次回の後編では、具体的な飲酒量とリスクの目安と、飲酒量を自分でコントロールするための方法を紹介します。
*アルハラについては、ASKのサイトを一読することをお勧めします。
(写真はイメージ)