8月に読みたい、戦争と平和を考える本8選 前編
8月は日本人にとって、最も深く過去の戦争に思いを馳せる月。第2次世界大戦終結から74年目を迎える今年、平和の意味について考え、歴史を学ぶ機会を与えてくれる良書を、NEWS SALT記者が集めてみました。
1.『それでも日本人は「戦争」を選んだ』
著者:加藤陽子
発行:朝日出版社(2009年)
明治維新以降、日清戦争から太平洋戦争まで、日本は世界の列強と伍していく中でどのように状況を認識し、戦争を選んだのか――本書は東大教授である著者が中高生に対して、繰り返し歴史の「なぜ?」を問いかけながら彼らに自ら考えさせつつ、豊富な史料をもとに検証する形式で行われた講義を収録したもの。
歴史の教科書には、満州事変から太平洋戦争まで「軍部の独走で戦争に到り、庶民は戦争に駆り出され、財産も命も奪われた」と書かれてある。つまり、軍部=加害者 庶民=被害者という図式だが、本書を読んでみるとそういう単純な図式ではなかったことがわかる。たとえば満州開拓の裏に農村の深刻な疲弊があったこと、それを問題視したのが軍部だったことなどが読み解ける。
歴史を単なる出来事の羅列としてではなく、当事者として学ぶことの重要さを知らされる良書。
(推薦者:垣渕洋一)
2.『ベトナムの少女―世界で最も有名な戦争写真が導いた運命』
著者:デニス・チョン
発行:文春文庫(2001年)
ベトナム戦争中、ナパーム弾の爆撃を受けて火傷を負い、裸で泣き叫ぶ少女の姿をとらえた1枚の写真は、戦争の悲惨さを伝えるものとして世界的に有名になった。同書はこの写真の主人公、ファン・ティ・キム・フックの伝記。
そもそもベトナム戦争とは?から始まり、戦争に巻き込まれ、被害を受けた人々のその後の人生にまで触れられている。各国政府の動き、マスコミの取材、それに翻弄される市井の人々。そしてその中でも強く善く生きようとする人々の姿が読む人の心を打つ。波乱にとんだキム・フックの人生の中で語られる家族、病気、信仰……。一人の人生を通して、多くのことを考えさせてくれる傑作である。
(推薦者:平井明)
参考記事
『ベトナムの少女』「戦争を終わらせた写真」の主人公から学ぶもの(2019/04/28)
3.『この世界の片隅に』上・中・下(全3巻)
著者:こうの史代
発行:双葉社(2008年)
戦争が激化した1943(昭和18)年から1945(昭和20)年の広島県を舞台に、幼少期を過ごした広島市江波から、軍都・呉に18歳で嫁いだ主人公すずと、彼女を取り巻く人々の物語を描いた漫画作品。物資のない中で工夫を凝らして作る日々の食事、家族で囲む食卓、身近な人の死など、戦争下での人々の「日常」が淡々と描かれている。つい数十年前、そこにあった「生活」が戦争によって様変わりする様子がリアルで、じわじわと胸を締め付ける。2009年に第13回文化庁メディア芸術祭のマンガ部門優秀賞を受賞。2011年と2018年にドラマ化、2016年には長編アニメーション映画が全国公開された。なお、映画は2019年8月8日に劇場公開から連続上映1000日を迎える異例のロングランとなった。
(推薦者:山中麻莉子)
4.『象のいない動物園』
著者:斎藤憐
発行:偕成社文庫(2012年)
1943年、太平洋戦争さなかの上野動物園。空襲で猛獣が町へ逃げ出して混乱が起こることを防ぐためとして、象をはじめ多くの動物たちが殺処分された。終戦後、焼け跡の日本を生きる子どもたちがその悲しい事実を知り、「象を見たい」という夢の実現のために心を一つに立ち上がる。
本書は実話を元にした物語で、1982年に絵本として初版が発行され、2012年に文庫化された。この物語は戦争の悲惨さを伝えることで終わらず、終戦直後、民主主義の道を歩み始めた日本が、自らの手で夢の実現のために動き出す姿を描き出している。子どもたちの夢に向かう真っ直ぐな心が、ひとつのムーブメントを起こしたことを記録する物語。
(推薦者:芳山喜代)
(後編に続く)