8月に読みたい、戦争と平和を考える本8選 後編
8月は日本人にとって、最も深く過去の戦争に思いを馳せる月。第2次世界大戦終結から74年目を迎える今年、平和の意味について考え、歴史を学ぶ機会を与えてくれる良書を、NEWS SALT記者が集めてみました。(前編はこちら)
5.『夜と霧』
著者:ヴィクトール.E.フランクル
発行:みすず書房(2002年)
「あなたが人生に絶望しても、人生はあなたに期待することをやめない」
アウシュビッツ収容所に送られた医師フランクルは、自殺を考えた仲間をその言葉で引き止めた。人間としての尊厳も希望も奪われたその場所で、精神の自由をよりどころに生き延びた著者の貴重な記録は、時代を越えて私たちに生きることの貴さを伝えてくれる。
壮絶な収容所体験を詳述しながら、読む人に限りない力を与える希望の書であり、ホロコーストを知る上でも必読の書。長年、
(推薦者:見市知)
6.『水木しげるのラバウル戦記』
著者:水木しげる
発行:筑摩書房
『ゲゲゲの鬼太郎』で知られる水木しげるが、太平洋戦争の激戦地ラバウルで従軍した経験を綴った戦記。奇跡的に生還し、南島での記憶が冷めやらぬ復員直後にわら半紙の表裏に鉛筆で描いた絵に、後から文章を添えて完成されたものだ。戦地でもぼーっとしているか絵を描いているかだったという筆者のマイペースな姿と、上官から理不尽な暴力を受け続ける苛酷な軍隊生活、死と隣り合わせの戦地の様子(筆者は爆撃で片腕を失っている)のコントラストが何ともシュールだ。そして現地で「土人」(大地の民という意味で、親しみを込めて筆者があえてこう呼んでいる)との交流を通して、物がなくても豊かな心で暮らす彼らの生に触れる。生きることや心の平安についてまでも考えさせられる書。
(推薦者:田中陽子)
7.『生きる 劉連仁の物語』
著者:森越智子
発行:童心社(2015年)
本書は、1944年に日本軍により中国から連れ去られた
苛酷な炭鉱労働から逃亡し、終戦も知らずに13年間北海道の山中に身を潜め続けた劉氏。壮絶な環境のなかでも希望を失わずに生き抜いた姿を通して、戦争の悲惨さや愚かさだけでなく、「生きる」ことの意味についても考えさせられる一冊である。
(推薦者:白井美香)
8.『茶色の朝』
著者:フランク・パヴロフ(物語)、ヴィンセント・ギャロ(絵)、藤本一勇(訳)
発行:大月書店(2003年)
物語は、主人公と友人がコーヒーを飲みながら対話している場面から始まる。対話の中で友人は、自分の犬を安楽死させた話をする。理由は犬が「茶色でなかったから」。その国の政府は「茶色以外のペットを飼わないように」と推奨する声明を発表したばかり。やがて茶色を批判した新聞は廃刊になり、「茶色でないもの」が狂気的にどんどん排除されていく。最後は主人公の家にも、当局の手が及ぶ。
欧州において茶色は、ナチスやファシズムを意味する色。この寓話では人々の淡々とした生活の中で、ファシズムが静かに広がっていく恐ろしさを描いている。そして主人公は最後に「どうやって抵抗すべきだったのか?」と考える。
同書は、2002年のフランス大統領選で極右が躍進した時代背景の中で書かれ、ベストセラーとなった。日本版ではオリジナルの絵と解説が加えられている。
(推薦者:丸山真実子)