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【ノーベル賞2019】ノーベル経済学賞に開発経済学の3氏受賞

【ノーベル賞2019】経済学賞に世界の貧困問題への開発経済学の3氏

スウェーデン王立科学アカデミーは、14日、2019年のノーベル経済学賞を米マサチューセッツ工科大教授でインド出身のアビジット・バナジー氏、同大教授でフランス出身のエスター・デュフロ氏、米ハーバード大教授で米国出身のマイケル・クレマー氏の3氏に授与すると発表した。

【ノーベル賞2019】経済学賞に世界の貧困問題への開発経済学の3氏

バナジー氏は、アジアからの経済学賞受賞者としては1998年のアマルティア・セン氏に続き2人目。デュフロ氏は46歳で史上最年少、女性の受賞者としては2009年のエリノア・オストロム氏に続いて2人目となる。

 

世界の貧困問題に対するアプローチ

今回の経済学賞は、「世界の貧困を軽減するための実験的なアプローチ」に対して与えられたもの。過去20年で最貧国のGDPは倍増し、子どもの死亡率は半減、通学率も80%に改善した一方で、いまだに残る世界の貧困問題。3氏がそれに対し、フィールド実験に基づく有効かつ具体的解決手段を提唱したことが評価された。同研究では、生徒たちに「教科書」と「無料の食事」のどちらを与えると効果が大きいかなど、実際の途上国の町や村という個々の社会的条件の中で、貧困緩和との因果関係を探っている。こういった実験的アプローチはこの20年間で「開発経済学」として確立されたもの。

ノーベル経済学賞はこれまで、マクロ経済学、ミクロ経済学、計量経済学のほか、近年では、心理学の要素を含む行動経済学や、気候変動の経済モデル等に対して贈られている。

 

ノーベル経済学賞設立の経緯と歴史

ノーベル賞は、アルフレッド・ノーベル氏の遺言に基づいて1901年から始まったが、経済学賞だけは他の5つの賞とは起点が異なっており、1968年にスウェーデン国立銀行の設立300年を記念して提案され、翌年設立された。正式名称は、アルフレッド・ノーベル記念スウェーデン国立銀行経済学賞(The Sveriges Riksbank Prize in Economic Sciences in Memory of Alfred Nobel)。また、ノーベル賞の中でこれまで唯一日本人の受賞者を出していない分野でもある。

1974年に受賞したフリードリヒ・ハイエク氏は、経済学賞が他のノーベル賞に比べて、政治、経済、社会への影響を及ぼしやすいことを指摘している。1976年に受賞したミルトン・フリードマン氏も「ノーベル賞受賞者の専門外の領域に対して与えられる過度な脚光」に対して警鐘を鳴らしている。

また1997年の受賞者であるマイロン・ショールズ氏とロバート・マートン氏が、役員としてその金融理論を実践するために設立されたLTCMが、1998年のロシア経済危機で多額の損失を出し破綻したという経緯もあり、ノーベル経済学賞を受賞した経済理論が現実の予測において通用しなかった一例となった。

 

アマルティア・センの「貧困メカニズムの研究」

その翌年、インド出身のアマルティア・セン氏が、アジア人としては初めて経済学賞を受賞。セン氏がミクロ経済学視点からの貧困メカニズムの研究で受賞したのは、同賞の権威を取り戻すためだったともいわれる。

セン氏は、生産性の低さや食料不足が原因と捉えられていた貧困の問題が、市場競争における市場の失敗によってもたらされることを簡潔に説明した。また、教育と国民の健康の改善が経済改革に先行しなければならないと主張し、「人間の幸福は経済的尺度だけでは測れない」として、善き生を自由と結び付けて考える「ケイパビリティ・アプローチ(Capability Approach)」を提唱した。

(冒頭の写真はイメージ)