• Local
  • 地域を活性化させ豊かな日本に
  • HOME
  • Local , 国際
  • ミュンヘン市街中心部にある異世界への扉 アザム教会
ミュンヘン市街中心部にある異世界への扉 アザム教会

ミュンヘン市街中心部にある異世界への扉 アザム教会

欧州の歴史ある街並みを歩いていると、10メートルに1軒くらいの間隔で教会建物に出会うことがあります。南ドイツの大都市ミュンヘンもまた然り。16世紀に起こった宗教改革以来、おもに北部にプロテスタント、南部にカトリックと2つの宗派が共存しているドイツですが、ミュンヘンは特にカトリックの伝統が根強いバイエルン州の首都です。

そんな美しい教会建築が数多く立ち並ぶミュンヘン市街中心部に、知る人ぞ知るちょっと異質な教会があります。その名はアザム教会です。
 

教会には本来、聖書の登場人物や聖人の名前、聖書ゆかりの地名が付けられることが多いですが、「アザム」というのは聞きなれない名前……それもそのはず、この名前は教会を造った兄弟の苗字なのです。

本来、公共建築である教会ですが、アザム教会はプライベートの教会として1733~46年にかけて建てられたもの。彫刻家でありスタッコ*職人としても名声を博したエギド=キリン・アザム(1692-1750)が、自宅と仕事場用に購入した建物の一部を教会に造り変えたものだそうです。芸術家であり職人でもあったアザム兄弟が、王侯貴族や聖職者の意向に縛られず、自分たちのこだわりと信仰、インスピレーションを惜しみなく発揮して造った……と聞くだけで、すでに普通ではない感じが伝わってきます。

ミュンヘン市街中心部にある異世界への扉 アザム教会
後期バロック様式の装飾に囲まれた細長い礼拝堂。祭壇の十字架の位置が際立って高いのが特徴

アザム教会の中に一歩足を踏み入れると、壮麗な後期バロック様式の内装に目を奪われます。しかし教会空間は22×8メートルと狭く細長く、そして一般訪問者が入ることのできる地上階スペースは、天井の高さに比べてなんとなく井戸の底を思わせるような暗さです。
この暗さは地上の苦しみを象徴しているのだと言われ、かつて王侯貴族のみが上がることができた上階に行くほど、天井の明るさに近づくことができます。しかし、上階部分は今も一般公開されていません。

ミュンヘン市街中心部にある異世界への扉 アザム教会
上段に行くほど明るくなり、天の光に近づける

アザム教会は、ミュンヘンの守護聖人といわれる殉教者、聖ヨハン・ネポムクに捧げる教会になっているのも特徴で、壁面に描かれている聖画の中にもネポムクの姿が登場します。庶民の多くが聖書を読むことができなかった時代、民間伝承とも混ざり合った聖人信仰は、より身近な人物像を通してキリストを理解するひとつの手段だったとも言えます。

そして教会のサイズに対して多いのが告解こっかい部屋。信徒たちが罪を告白するためのスペースです。これは聖ネポムクが、告解の聖人として知られることとも関係しているのかもしれません。

ミュンヘン市街中心部にある異世界への扉 アザム教会
聖画の中に描かれている告解の聖人ネポムク

さらにアザム教会が教会建築として異質な点は2つ。ひとつは祭壇が西側を向いていることで、本来の教会建築は東向きに建てられるのが決まりだそうです。そして祭壇に掲げられた十字架象の位置がとても高いこと。これは、イエス・キリストの受難を強調していると言われています。

ミュンヘン市街中心部にある異世界への扉 アザム教会
入口が東側、祭壇が西側を向いており、教会建築としては異例の設計

*スタッコ:化粧漆喰。壁や天井の表面仕上げ、および装飾に使われる建築材料のこと。
 

【基本情報】
Asamkirche
Sendlinger Straße 32
80331 München
最寄り駅: Sendlinger Tor駅(地下鉄U1/U2/U8)

(in association with the GNTB/協賛:ドイツ観光局)