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貴金属を使わず低温でアンモニア合成触媒となる新物質 東工大が発見

貴金属を使わず低温でアンモニア合成触媒となる新物質 東工大が発見

東京工業大学の北野政明准教授と細野秀雄栄誉教授らは、ルテニウムなどの貴金属を使わずに低温でアンモニア合成触媒となる新物質を発見した。この新物質の表面に鉄やコバルトなど安価な金属ナノ粒子を固定すると、ルテニウム系触媒より低温で優れたアンモニア合成触媒となることも見いだした。アンモニア合成プロセスの大幅な省エネルギーに繋がるという。この成果は米科学誌『ジャーナル・オブ・ジ・アメリカン・ケミカル・ソサエティ』オンライン速報版に11月22日付で掲載された。

人口増加に伴う食糧危機が叫ばれていた1906年、ドイツ人のハーバーとボッシュによって人工的にアンモニアを合成する「ハーバー・ボッシュ法(HB法)」が見いだされた。農作物を育てるには窒素分を含む肥料が必要だが、HB法は鉄を主体とする触媒上で水素と窒素を直接反応させてアンモニアを得ることができ、アンモニアを原料とした化学肥料が工場生産されるようになった。このため、「水と石炭と空気からパンを作る方法」とも言われ、100年以上経った現在でもHB法は人類の生活を支えるのに必要不可欠なものとなっている。一方、HB法は高温(400 – 500 ℃)、高圧(100 – 300気圧)の条件が必要であるため、エネルギーの掛からない低温低圧な条件下での合成技術が求められてきた。様々な金属が調べられ、1970年代にルテニウムが最適であるとわかり、ルテニウム系触媒が世界中から注目された。しかしルテニウムは希少で高価な貴金属であり、豊富に存在する安価な金属を使った、温和な条件下で作動する触媒が望まれている。

北野准教授らは酸化セリウム(CeO2)とバリウムアミド(Ba(NH2)2)を直接反応させることにより、ペロブスカイト型酸窒素水素化物(BaCeO3-xNyHz)の一段合成に成功した。これまでこの物質は合成例がなく、新物質であることも明らかとなった。原料であるバリウムアミドは200 ℃程度の低温から分解するため酸化セリウムとよく反応し、ペロブスカイト構造を形成すると同時に、酸素の位置にバリウムアミド由来の窒素と水素が導入される。この手法を用いると、ペロブスカイト構造が300℃という非常に低温から形成され550℃でほぼ均一な材料が得られる。これは一般的なBaCeO3の合成温度である約1000℃と比べてもかなり低温である。この新物質はルテニウムなどの金属ナノ粒子を固定しなくても安定したアンモニア合成触媒として機能することがわかった。

一般的にBaCeO3などの金属酸化物はアンモニア合成触媒として機能しないことから、導入された窒素イオンや水素イオン(H‒イオン)が触媒としての能力に寄与していることがわかる。さらに、BaCeO3に鉄やコバルトを固定してもほとんどアンモニア合成触媒としての機能を示さないのに、新物質の表面に鉄やコバルトを固定すると、既存のルテニウム系触媒よりも低温で優れたアンモニア合成触媒として機能することも明らかとなった。

アンモニアは分解することで多量の水素発生源となり、かつ室温・10気圧で液体になることから、燃料電池などのエネルギー源である水素を運搬する物質(水素キャリアー)としても期待されている。今回開発した新物質は、低温低圧でも優れたアンモニア合成触媒として機能し、貴金属を含まない。今後、触媒の調製条件などを最適化することで、さらなる能力の向上が見込まれ、アンモニア合成プロセスの省エネルギー化に大きく貢献することが期待される。

(写真はイメージ)