国産農産物は本当に安全か? 進むグローバルGAP取得
いよいよ約半年後に迫った東京オリンピック・パラリンピック。舞台裏でも準備は着々と進んでいる。開催期間中に選手の体を支える食事はオリンピックの大事な要素の一つだが、選手村等で使う国産野菜が問題視されているという。これまで「国産野菜は安全」だと考えられてきたが、オリンピックの「食」の現場ではいったい何が起こっているのだろうか?
オリパラで定められている食材調達基準
2018年6月1日に、内閣官房東京オリンピック・パラリンピック推進本部事務局と農林水産省から出された「2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会における食材調達に関する取組方針」によると、農産物の要件に関して以下のように書かれている。①食材の安全、②周辺環境や生態系と調和のとれた農業生産活動、③作業者の労働安全を確保するため、適切な措置が講じられていること。そして、これらの要件を満たすことを示す方法として、JGAP AdvanceやGLAOBALG.A.Pなどの認証をとること、また「農業生産工程管理(GAP)の共通基盤に関するガイドライン」に準拠したGAPに基づき生産され、都道府県等公的機関による第三者の確認がなされていることがあげられている。
世界で普及する食の国際基準「GAP」とは
日本人にはあまりなじみがないが、食材調達の基準として世界で普及が進んでいる「GAP」という認証システムがある。
GAPとは「Good Agricultural Practice」の略。すでに世界120カ国以上に普及している国際基準であり、日本語では「適正な農業の実践」と訳される。もともとは、安全な食材をどのように仕入れるかを決めるため、ヨーロッパの流通業者が始めたものが世界に広まった。食品安全、労働環境、環境保全に配慮した「持続的な生産活動」を実践する企業に与えられる認証である。イオンやコストコ、マクドナルドなどでは、すでにGLOBALG.A.Pを調達基準として採用している。また欧州ではスーパーマーケットのほとんどがGLOBALG.A.Pを調達基準としており、市場占有率は6~7割と言われている。GLOBALG.A.Pを取得していないと大手と取引ができないという。
GLOBALG.A.P認証の認知と普及の遅れ
世界では当たり前のように調達基準にされているGLOBALG.A.Pだが、日本ではまだまだ浸透していないのが現状である。2010年時点では約100経営体しか取得しておらず、2019年3月末時点で約700経営体にまで増えているものの、全体の農家の戸数およそ118万経営体のうち0.05%しか取得していない。ちなみに、世界における認証は2010年で約10万経営体、2019年3月末には約20万経営体に上っている。
「国産野菜」は本当に安全?
近年、世界の「和食ブーム」や日本国内への観光客の増加により、急速に日本食への関心が高まっているが、「国産野菜」に関しては世界からは冷ややかな視線を浴びているのが現状だ。日本では残留農薬問題などは大きなニュースになるため、農薬に関しては使用が厳密になっているが、野菜に残留している「硝酸塩」に関しては話に上らない。硝酸塩は、野菜が成長する過程で窒素を作るために吸収するものだが、これがすべて消費されず植物体内に残ってしまっていることが問題になる。硝酸塩はそれ自体が直接人間に害を与えるものではないが、体内で還元されると発がん性のある物質の生成に関与する可能性があると指摘されている。EUでは基準値を設けてモニタリング調査を実施しているが、日本ではそのような制度はない。そのため、EUで定められている基準より多くの硝酸塩を含む野菜、とくにホウレンソウやレタスなどの葉物野菜が日本では出回っている可能性があるのだ。
EUでは、こうした日本の国産野菜に対して不信感を持っている。また、第三者認証を徹底しているGLOBALG.A.Pを推進している国々にとっては、日本の農家が個人経営で生産工程が記録されていないという事実に、「国産は安全」という保障がどこから来るのかわからないという声もある。
食のグローバル化に備えて
人々が自由に行き来し、多くの民族、文化、宗教が交わるようになってきた現代。人々の移動に伴い必ず必要になる「食」に、世界が注目している。世界には宗教上の理由や動物愛護などの観点から食べられないものがある人は多い。「ビーガン」という言葉が日本でも認知され始めたが、原料の安全性までは考えが十分には行き届いていない現状がある。今、世界の食はおいしさ以上に、環境保護、労働環境の保全、動物愛護といった、生産現場に関わる全てのことを持続可能にしようと動いている。そしてこれは、国産農産物を輸出している日本の業者はすでにぶち当たっている壁でもある。
今後、日本の食が海外に認められるためにはGLOBALG.A.Pのように「農産物の生産過程から」認められる必要があるのだ。オリパラを契機に農業現場には大きな革命が求められている。
(写真はイメージ)