農業機械の自動化加速 自動化は日本の農業を救えるか?

サスティナブル農業で注目される「バイオスティミュラント」とは?

「バイオスティミュラント」という言葉をご存じだろうか? 食糧問題などを解決する新しい農業資材として、世界で注目され始めている。

近年、SDGsの理念が浸透し、農業界においても「持続可能であること」が求められるようになってきた。一方で、現状においては気候変動による異常気象によって、従来通りの収穫量を得ることすら難しくなっているうえに、急激な人口増加により今までより多くの食糧生産が急務となっている。さらに、農産物の輸出入や世界各地での人の移動のために、その土地固有ではない害虫が侵入し農作物に被害を与えている地域もある。地球温暖化は収穫量の減少をもたらすという研究結果も出ており、各国は食糧確保のための対策に迫られている。

自然の影響を直接受ける農業はこうした問題に翻弄されてきたが、近年、従来とは異なるアプローチで食糧生産を支える農業資材が生み出され、徐々に注目を集めている。今回は、海外で使用量を伸ばしている「バイオスティミュラント」を紹介する。
 

“生物的ストレス”の制御から“非生物的ストレス”の制御へ

「バイオスティミュラント」とは、日本語に直訳すると「生物刺激剤」。かつての農業では害虫、病気、雑草などの「生物的ストレス」が多かったため、農薬や肥料の開発、病害虫に抵抗のある品種の育成など生物的なストレスの制御が主だった。しかし近年では、干害、高温障害、塩害、冷害、物理的障害(雹や風の害)、農薬による薬害などの「非生物的なストレス」が多くなっている。これらに対する抵抗性を高め、増収や品質改善を実現させるものとして期待されているのがバイオスティミュラントだ。
 

見直される、農薬でも肥料でもない資材

バイオスティミュラントの効果としては、活性酸素の抑制、光合成の活性化、蒸散のコントロール、根量の増加・根の活性向上などがあげられ、具体的な資材としては、腐植質、有機酸資材、海藻及び海藻抽出物、アミノ酸、微生物資材などがある。この中には、日本の農業現場で昔から使われてきた自然由来の資材も含まれている。ここから言えるのは、これまでにすでに使われてきた「農薬でも肥料でもない」資材があらためてバイオスティミュラントとして分類され、注目を集めているということだ。

日本では農薬は農薬取締法、肥料は肥料取締法、土壌に関しては地力増進法で規制されているが、バイオスティミュラントに関しては今のところどの法的範疇にも入っていないため、どの資材がバイオスティミュラントに当たるのか、どのくらいの効果があるのかという明確な基準はないという点に注意したい。
 

拡大するバイオスティミュラント市場

日本ではまだまだなじみがないバイオスティミュラントだが、世界での使用量は増加している。2014年には1400億円市場に達しており、2021年には2900億円の市場に拡大する見込みだ。2019年3月にはEU新肥料登録法がEU議会で可決されており、バイオスティミュラントも欧州の市場に積極的に参入して、農業市場を活性化していくとみられている。また今後、バイオスティミュラント資材の生産の基準や法律が各国で作られていくと想定される。
 

日本での浸透はこれから

日本では2018年2月に「日本バイオシュティミュラント協議会」が発足。同協議会は雪印種苗(北海道札幌市)やハイポネックスジャパン(大阪府大阪市)など、肥料、農薬、土壌改良材などを取り扱う8社で設立し、現在は50社以上が賛助会員になっている。まだ農業現場での認知度は低いので、まずは資材の販売や流通の方面から浸透していくと予想される。現段階では的確な基準がないことから爆発的に売れているわけではないが、バイオスティミュラントで注目される「非生物的なストレスの制御」という概念は、これから農業界に浸透していくだろう。今後の動向に注目したい。

(写真はイメージ)