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[書評]『FUTURE EDUCATION!』 教育の究極の目的とは何か?

「偏差値の高い学校を出て、いい会社に入れば、生涯安定した暮らしができる」というひと昔前までの定説は崩壊した。「こうすれば将来は大丈夫」といった正解のない時代、私たちは何を教え、何を学べばいいのだろうか。またこれからの時代、どのような資質・能力が求められ、ゆえに教育はどこに向かっていくのだろうかーー。

本書は、「教育の究極の目的とは何か」といった根源的なテーマから、「2050年を生きるための教育」「成功や幸せの価値観を変えるための教育」などの教育観や実践、「コロナ危機を経て学校と学びはどう変わっていくべきか」という考察などを取り上げている。国内外で評価される学校教員のほか、ノーベル賞受賞者である野依良治氏、オンライン学習サービス「スタディサプリ」の司令塔・山口文洋氏、教育系YouTuber・葉一氏などへのインタビューを通じて、産学さまざまな角度から教育の未来と可能性を展望する。

なかでもノーベル化学賞を受賞した野依良治博士は、「私は今の教育と世相に大いに怒っている」と危機感あふれる提言をしている。野依博士は教育の目的を、豊かな人生を送るため、国の存立と繁栄をもたらすため、人類文明の持続に資することの3つと定義する。そこで、どのような人生・国・人類社会であるべきか、理念や構想がなければ本来教育はできないが、日本にはそれが欠けていると警鐘を鳴らす。

日本の抱える少子高齢化やエネルギー・資源問題を前に、持続可能性を視野に入れた営みを続け、社会全体の質を向上させるような次世代を育てなければならない。それを阻んでいるのは、「戦いに勝つことは善である」とする考えや、自己利益の最大化を是認する倫理の問題だと、野依博士は考える。

本書のインタビュアーである教育新聞の小木曽編集長は、「教育の未来とは世界の未来」だと語った。これからの世界をつくる理念や構想を練り直すことが、教育イノベーションの大きな一歩ではないか。それには子どもも大人も問わず、私たち一人ひとりの考えの根源が問われている。

(冒頭の写真はイメージ)

『FUTURE EDUCATION! 学校をイノベーションする14の教育論』
著者:教育新聞
発行日:2020年11月18日
発行:岩波書店