[書評]『そろそろお酒やめようかなと思ったときに読む本』正しく知ることが第一歩
筆者は15年ほど前にあるきっかけがあって、それ以来アルコール類を飲むことを一切止めた経緯を持っている。
話すととても長くなるのでここでは詳細は割愛するが、本書『そろそろ、お酒やめようかなと思ったときに読む本』では、15年前の筆者の境遇や心理状態を言い当てられている部分が多くてどきりとした。
本書の著者は垣渕洋一医師。東京アルコール医療総合センター・センター長で、成増厚生病院副院長を務める依存症のエキスパートだ。
近年、アルコールや薬物をはじめとする依存症問題への啓もうが進む中、多くのメディアで専門家としてコメントし、本サイトでもシリーズで依存症に関する記事を寄稿している。
本書はそのタイトルからは一見、酒飲みに向けてのメッセージのように見えるが、私たちの社会で食文化やコミュニケーション手段の一部として定着している「お酒」というものに対する「大いなる誤解」を解くところから始まっている。
お酒とは何か?人はなぜお酒を飲むのか?
一般に嗜好品、または食品の一種だと思われているアルコール飲料が、実は医学的には「薬物」に分類されるのだということを知る人が、いったいどれだけいるだろうか。
お酒を飲むと気持ちがよくなり、楽しくなる、という効用も、それによって脳内で生み出されるドーパミンやセロトニンなどの「気持ちよくなる物質」の薬理効果によるもの。しかし飲酒を続けることで、体内ではいったいどんなことが起こっているのか?
著者は、お酒は健康障害をはじめとしたさまざまな問題を引き起こす一方で、それには「身体的な健康効果はまったくない」と言い切る。
「酒は百薬の長」という有名な言葉がある。これは今から2000年近く前、中国の王莽という皇帝が酒税を創設し、酒類の消費を促進するために発した「キャッチコピー」だったという。
筆者は15年前、お酒が大好きだった。
しかしそれがいつしか、おいしく味わうため、楽しむためのお酒ではなく、ストレスを解消する手段になって酒量が増えていることに気づいて危機感を持ち、本書冒頭にあるように自問自答するようになった。
「私はなぜお酒を飲むのか?」
お酒に限らず、それが不健康なもの、有害なものだという側面がありながら、魅力的な広告コピーとともに市場に流通しているものが世の中にはたくさんある。
そんなとき、正しい情報を得ることに加えて「私はなぜこれを摂取するのか?」と自分の消費行動を見つめ、自分自身と向き合うことが最初の一歩になる。
「飲酒問題は心の問題と非常に密接です」
と著者は言明する。
本書では、アルコール依存症当事者や予備軍、その家族に向けた具体的で詳細な対策やアドバイスに多くのページが割かれている。臨床医として多くの依存症者と接してきた著者の専門家ならではの視点と、患者の病気だけでなく一人一人の人生に寄り添う温かなまなざしが全編に感じられる。
『そろそろお酒やめようかなと思ったときに読む本』
著者:垣渕洋一
発行日:2020年12月20日
発行:青春出版社
(冒頭の写真はイメージ)