脳腫瘍などの放射線治療計画を短時間で生成 富士通とトロント大が共同開発
富士通研究所は2月26日、トロント大学と共同で、量子コンピューティング技術を応用して組合せ最適化問題を高速に解く技術「デジタルアニーラ」を用いて、脳腫瘍などの「ガンマナイフ」という手法を用いた放射線治療計画を短時間で生成する技術を開発したと発表した。
ガンマナイフ治療は、脳腫瘍などの脳障害や大脳の動静脈奇形の治療に用いるもので、患部に対し、頭部の様々な方向から少量のガンマ線を照射することで、高い効果をあげるもの。開口手術の必要がない非侵略性と高精度というメリットがある。治療においては192本のガンマ線の光源を様々な位置から照射することで、患部のみに指定の線量を照射し、周辺の健康な臓器への照射量を抑える。
しかしこれを行うためには、患部に対して最適な照射になるように、照射の位置、形状、強度といったパラメーターを最適化する必要がある。その組合せパターンは膨大であり、現在の医療現場では、医師が経験に基づいて手動でパラメーター調整を繰り返しながら、治療計画を生成している。そのための時間は1.5~3時間程度かかり、医師の負担もその間に固定されている患者の負担も大きい。
富士通研究所とトロント大学は2017年より、量子コンピューティングについて戦略的パートナーシップを締結して研究を進めてきた。デジタルアニーラは量子コンピュータではないが、従来のコンピュータを用いて量子現象の1と0との重ね合わせのような揺らぎの状態を疑似的に表現して、組合せ最適化問題を高速で解くことができる技術だ。デジタルアニーラを用いて解析することによって、数時間かかっていた治療計画の生成が、同等の精度を保ちつつ数分で完了することを可能にした。
今回開発した技術を聴覚神経腫瘍49例について、放射線の照射精度を示す指標を使用して従来の医師の手動による方式と比較したところ、2分程度で同等の精度を示した。
今後、富士通研究所とトロント大学は、さらに多くの患者のデータに基づいてこの技術の有効性を検証していくとともに、社会に貢献できる技術開発を進めていくとしている。
(写真はイメージ)
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