高校で「情報Ⅰ」必修化など教育のデジタル化で社会はどう変わる?【後編】
高校の教科「情報Ⅰ」の必修化について、前編に引き続き、今回は教員や社会人の視点で見ていきます。
インタビュイー:吉金丈典
大阪大学・基礎工学部・博士前期課程卒業後、大手電機メーカーに8年間勤務したのち、そろばんLABO芽育を開校。小中学生10人以上の有段者を育てた実績を持つ。2018年より小学生向けのプログラミング教育にも取り組む。インタビュアー:田中陽子(教育ライター)
田中:高校の「情報」の専任教員はまだ少なく、学校現場の人材不足は否めません。塾などの私教育のサポートも重要になってくるかと思いますが、吉金さんの経営されるプログラミング教室「芽育」では、新学習指導要領を受けてどのように対応される予定ですか?
吉金:当校の目標は、「大学・(中学校卒業後の)専門学校にスムーズに接続できる状態にすること」です。学習塾や学校現場では本格的なプログラミングを教えるところまで手が届かない場合でも、チャレンジできる中学生には、将来「情報」で大学受験をして結果が出せるよう、スクラッチでのプログラミングを始めとして、高校の教科書で扱われているPython(パイソン)を用いたコーディングを楽しく学べるようにしています。とりわけ、生徒さんたちが自ら取り組めるようなシステムを作っており、教師は一つのモニターで6人の生徒さんの学習を確認しながら、リアルタイムでサポートしています。
中学生向けには、本格的なロボットを作ることまではしませんが、「micro:bit(マイクロビット)」を使用して、各種センサーを使った作品を作ることも検討しています。また、データの活用能力を養うため、データベース言語のひとつである「SQL」を学習することも考えています。
田中:教員不足を補う意味で、新しいカリキュラムに沿ったオンデマンド教材なども開発されると良いですね。
さて翻って、情報リテラシーを身につけることは、大人にとっても喫緊の課題です。エンジニアなど専門職ではない一般的な社会人は、どのような学びをしたら良いでしょうか?
吉金:まずは、デジタル関連のニュースに関心を持つことから始めてみてはいかがでしょうか。身近なニュースだと、2020年9月に、NTTドコモが提供する電子決済サービス「ドコモ口座」や使った不正引き出し事件がありました。私はこのニュースを見た時、ただ見て終わるだけでなく、そこから一歩踏み込んで「自分ならどんな対策をとっただろうか?」と考えました。例えば、「使用している暗証番号やパスワードをもう少し複雑なものに変更しようか」とか、「一つの電子マネーを使うのではなく、リスク分散として複数のサービスを使いわけてみてはどうか」などと、自分事としてとらえてみるのが情報リテラシー向上への最初の一歩になるのではないでしょうか。
また、今後社会に出てくるデジタルネイティブ世代の人たちに対して、私たちのような上の世代が排他的にならず、これからの将来を担う人たちがどのような感覚を持っているのかを理解し、彼らから学び、吸収することが、結果、上の世代にとっても財産になるのではないでしょうか。
先生や先輩が教え、生徒や後輩が学ぶ、といった一方通行の教育という古い考え方ではなく、お互いに学び合う姿勢や積極的なコミュニケーションを取ることが、新しい時代の学びと実践だと考えます。
田中:社会や数学においては学び直しの一般書が長らくヒットしていますが、情報に関してもそうしたコンテンツが増えて、社会人のリテラシー向上につながると良いですね。
<取材後記>
2020年度から小中高校の学習指導要領の改定が進み、情報教育もアップデートされています。これにあわせて、指導する教員や、近い将来人材を受け入れる社会の準備が急務です。最先端の教育を受けた人たちから時には学び、社会全体もアップデートしていく土壌づくりが進むと良いと感じました。(田中陽子)
(写真はイメージ)