パラオで高水温・高CO2環境に打ち勝つサンゴ群集を発見 琉球大
琉球大学の栗原教授らは5月28日、パラオ共和国のニッコー湾において自然の状態で高水温・高CO2(低pH)環境を示す極めてユニークな海域を発見したことを発表した。この環境は気候変動によって世界中のサンゴ礁海域で引き起こされると予測されている厳しい環境と同じだが、ニッコー湾においては多様なサンゴ種が健全な状態で生育していた。この成果は、オープンアクセスの電子ジャーナル「サイエンティフィック・リポーツ」に5月27日付で掲載された。
パラオと日本の関わり
パラオは第一次世界大戦後に日本の委任統治領となり、コロール島には多くの日本人が移住していた。ニッコー湾はコロール島の南に位置し、1934年にサンゴ礁研究を行うためパラオ熱帯生物研究所が設置され、川口四郎博士によって世界で初めてサンゴと植物プランクトン(褐虫藻)の共生関係が明らかにされた。同研究所は第二次世界大戦中の1943年に閉所されたが、2001年に日本の無償資金協力により研究所の跡地から近いところにパラオ国際サンゴ礁センター(PICRC)が設立され、現在は世界中の研究者が同センターでサンゴ礁研究を行っている。
気候変動に対するサンゴ礁保全に繋がるヒント
琉球大学とPICRCは、国際協力機構(JICA)と科学技術振興機構(JST)による研究プログラムSATREPSの助成を受け、「気候変動下におけるパラオサンゴ礁生態系への気候変動による危機とその対策」を目指した共同研究を2012年から2017年まで実施した。この中で栗原教授らは、ニッコー湾において自然状態で高水温・高CO2(低pH)環境を示す極めてユニークな海域を発見した。湾内の海水温は湾外よりも常に1~2℃高く、さらに海水のpHは0.3~0.4程度低く維持されていた。このような環境は多くのサンゴ群集にとって極めて不健全な環境であるとされてきたが、従来の予測とは異なり、サンゴの白化などは観察されず、多様なサンゴ種が健全な状態で生息していた。
ニッコー湾の海水環境をさらに詳しく調査した結果、湾内の複雑な地形によって海水が湾内に2ヶ月程度とどまっており、その間海水が太陽に熱せられると共に、湾内に生息する多くのサンゴ類の呼吸や石灰化などの生物自身の代謝の影響によって作り出されていることが明らかになった。さらに湾内外でのサンゴの種の組成を調べた結果、湾内のサンゴの多様性は湾外をもしのぐ高さを示す一方で、湾内ではサンゴ礁域で一般的に見られるミドリイシ属のサンゴ種がほとんど観察されなかった。また湾内外で共通して多く見られたサンゴ種(ユビエダハマサンゴ)を用いて湾内と湾外で交換移植実験を行った結果、湾外のサンゴに比較して湾内のサンゴは高水温・高CO2環境に対して、高い耐性を示すことが明らかになった。
この結果、サンゴ礁を形成するサンゴが高水温・高CO2(低pH)という海洋生物にとっては過酷な環境に対しても、巧みに適応していることが示された。今後これらのサンゴが持つ適応性の機構を解明していくことで、環境変化に対して生物がどのように適応進化するのか明らかにできる可能性がある。さらに高水温・高CO2環境に適応したサンゴを研究することで、今後の気候変動に対するサンゴ礁生物の保全策に繋がるヒントが得られることが期待される。
画像提供:琉球大学