[書評]「未来探求2050」東大30人の知性から得られる未来社会の展望
日々めまぐるしく進歩する科学技術や、国連が掲げる持続可能な開発目標(SDGs)、パリ協定などによる10年後・30年後の目標を目にすることが増えている昨今では、未来に対する関心がより高まっているのではないだろうか。
2019年に発足した東京大学未来ビジョン研究センターは、未来をより良いものに作っていくには各学問分野における知識が重要な役割を持つとし、SDGsを中心とした未来社会の課題について分野横断型での研究を進めている。同センターがコロナ禍の2020年に編纂し、今年3月に出版したのが「未来探求2050 東大30人の知性が読み解く世界」だ。
本書は3部から構成される。第1部は未来研究など、未来に関連する学問についての解説。第2部では東京大学の様々な分野の30人の研究者へのインタビューがまとめられている。それぞれが自分の研究分野について解説しており、2030年・2050年の展望やその研究分野が未来社会とどのように接点を持っていくのかが語られている。データ工学やロボット研究などの科学技術の分野に限らず、日本史、西洋美術史、仏教史などの人文科学・社会科学も含めた幅広い学問領域がカバーされている。第3部は五神真・前東京大学総長と藤原帰一・前未来ビジョン研究センター長による対談で、東京大学が挑戦する新たなビジョンや、変化していく社会の中での大学のあり方などについて語られている。
本書の魅力は何と言っても、最先端の研究が一般読者向けにわかりやすくまとめられている点だ。読者はその分野によって発展していく未来社会をより身近に想像し、感じることができるだろう。新たな技術開発によって生み出される新しい商品やサービス、社会の変化によって変容していく考え方や価値観についての示唆が与えられる点も興味深い。
その一方で、未来をより良く作っていくために必要なのは、学問や経済分野、政策による努力だけではない。本書は、これからの社会をどのように作っていきたいのか、自身や子どもたちがどのような生活を送ることを願うのか、という問いに対して、私たち一人ひとりが真剣に向き合うことが重要だとも示唆している。
学問の世界が蓄積してきた「知識」を通じ、これからの未来社会を展望し、考えるきっかけを与えてくれる1冊だ。
編集:東京大学未来ビジョン研究センター
発行日:2021年3月18日
発行:日経BP 日本経済新聞出版
(冒頭の写真はイメージ)