反射方向を自在に設定できるメタサーフェス反射板開発 ポスト5G/6Gに利用
産業技術総合研究所(産総研)は26日、140GHz周波数帯で自然にはない反射特性を示して反射方向を自在に設定できる反射板を世界で初めて開発したと発表した。この周波数帯はポスト5G/6Gで利用予定であり、基地局なしにその無線通信のエリア拡大を可能にするという。
日本では2020年に運用が開始された第5世代移動通信システム(5G)に対し、超低遅延や多数同時接続などの特徴的な機能が強化されたシステムがポスト5G、2030年頃に運用開始が見込まれる後継通信システムが6Gだ。ポスト5G/6Gでは100GHz超の周波数のミリ波が利用される予定。これまで携帯電話で利用されてきたより低周波数の電磁波に比べて高速大容量通信が可能だが、直進性が高いため建物などの障害物で遮断されやすいというデメリットもある。
これを解決するために、高効率な反射を特定の方向に設定できる反射板を用いて通信エリアを拡大することが検討されている。そのための反射板はメタサーフェス反射板といわれるもので、電磁波の波長よりも十分に小さな構造体を表面や内部に配列して構成されており、自然界の材料が示さない特殊な電磁的性質を示す。建物の壁や窓などに配置することで、メタサーフェス反射板が基地局からの信号を異常反射することで中継し、障害物で見通し外となるエリアでも通信が可能となる。
しかし、従来は100GHz超の周波数帯におけるメタサーフェス反射帯を最適設計するためには、材料の複素誘電率や導電率を高精度に計測することが困難なことが問題になっていた。
産総研 物理計測標準研究部門電磁気計測研究グループの加藤悠人主任研究員らは、高精度の誘電率・導電率計測の研究に取り組んで、従来の10倍の世界最高レベルの精度を達成した。開発したメタサーフェス反射板は、裏面が金属で覆われた誘電体基板の表面にサブミリオーダーの金属パッチを周期的に配列した構造。各種パラメータを最適化して、垂直入射からそれぞれθR=45゜, 60゜, 75゜方向に異常反射する3種類の140GHz帯メタサーフェス反射板を設計した。試作した反射板を性能評価したところ、設計した異常反射方向への高効率な反射が実現していることが確認された。θR=60゜で設計した反射板では、材料損失を含んだトータルの反射効率は84%となり、高効率動作を示した。
今回開発された140GHz帯のメタサーフェス反射板は設置の自由度が高く、景観を損なうことなく基地局と端末との中継を高効率に実現し、ポスト5G/6G通信の低消費電力かつ柔軟なエリア拡大への貢献が期待できる。今後はさらに300GHzまでの高周波化や反射方向の動的制御、マルチバンド動作などの高機能化の研究開発を進めていくとのこと。
画像提供:産総研