次世代有機リチウムイオン電池の有機化合物正極材料を開発 東北大学
東北大学は11日、次世代有機リチウムイオン電池の有機化合物正極材料として「クロコン酸」を用いることで、現行リチウムイオン電池よりも高い4V(ボルト)での高電圧動作を実証したと発表した。金属資源を一切使用しない、安価でレアメタルフリーな高エネルギー密度蓄電池開発が期待できる。この研究成果は10日にAdvanced Science誌にオンライン掲載された。
リチウムイオン電池は携帯情報機器や電気自動車などの電源として幅広く普及しており、低コスト化・高安全・高エネルギー・高出力など更なる高性能化が求められている。
中でも大きな問題は、電池部材に用いるレアメタルの資源的な制約である。例えば正極材料に使用されるコバルト資源は2030年頃までに逼迫し、さらに2050年頃には枯渇すると言われている。そのために金属資源を一切使用しないレアメタルフリー正極材料の開発が重要となっている。
正極材料の候補材料として、炭素、窒素、酸素、水素などの軽い元素のみから成る有機化合物が近年注目されている。有機化合物は資源的制約がなく、多彩な材料設計が可能である。またレアメタル金属元素からなる無機材料と比べて軽く、容量密度を大きくすることができる。
しかし、従来の有機材料の多くは動作電圧が低いという課題があった。現行リチウムイオン電池の動作電圧が3.7V程度に対して、これまで報告されている有機物正極材料の動作電圧はほとんどが3V以下であった。
東北大学多元物質科学研究所 小林弘明助教、本間格教授らの研究グループは、低分子有機物の中で高い反応電位を示す材料を探索し、その中でクロコン酸に着目した。クロコン酸は炭素同士が五角形の形で結合し、その炭素それぞれに酸素が結合した分子構造をしている。
これらの炭素–酸素結合は酸化還元(レドックス)反応によって電子を貯蔵することが可能である。これまでクロコン酸を蓄電池正極に用いた研究例はあるが、5つの炭素–酸素結合のうちで2つまでしか利用しておらず、その電位は2V以下という低い動作電圧であった。
今回の研究では4つの炭素–酸素結合を用いて4Vを超える動作電位を実現した。これにより現行リチウムイオン電池の無機化合物材料や、近年報告されている有機分子材料、有機ポリマー材料よりも高いエネルギー密度の蓄電池を作ることが可能になる。
この研究でもクロコン酸の炭素–酸素結合5つ全部を生かしてはおらず、電池設計の面でも課題がある。また有機化合物正極は全固体電池、マグネシウム電池、ナトリウムイオン電池などリチウムイオン電池以外の次世代電池への利用が可能であり、レアメタルフリーで安価な次世代蓄電池の可能性が期待できる。
画像提供:東北大学(冒頭の写真はイメージ)
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