子どもに委ねる自由な学校 映画「夢みる小学校」に見る未来の教育の姿(前編)
通知表がない、校則がない、宿題もない学校。そんな夢のような学校が果たして存在し得るのか? そう思う人も多いだろう。こうした自由な学校で過ごす活き活きとした子どもたちの姿を映し出す、オオタヴィン監督のドキュメンタリー映画「夢みる小学校」が、2022年2月から公開されている。
映画では、自己決定・個性化・体験学習という三つの原則を大切にしている「きのくに子どもの村学園」傘下の、山梨県にある「南アルプス子どもの村小学校」をメインに取り上げ、一人ひとりの個性や興味が最大限尊重される自由な教育の現場を映し出す。また、60年間成績通知表や時間割がない「体験型総合学習」を続ける長野の公立伊那小学校や、校則や定期テストを廃止した東京都世田谷区立桜丘中学校の様子も取り上げられている。
南アルプス子どもの村小学校(以下、子どもの村)では、「プロジェクト」と呼ばれる体験学習が時間割の半分を占め、実生活と結びついた本物の仕事を通して学ぶ楽しさを知ることが学習の中心になるようなカリキュラムとなっている。そこには、教員の出す問いに答えるばかりの旧来型の教育ではなく、子どもたち自らが問い、楽しみながら学ぶ、本質的な学びの姿がある。「この学校にいるとわたしでいられるの」という劇中の小学4年生の言葉も印象的だ。
映画の中で、質問を積極的にする子どもの村の子どもたちの姿と対比させて、問いを育てない日本の教育に言及している場面がある。なぜこの学校の子どもたちは積極的に問い、自ら探究することができるのだろうか?
同校で非常勤講師として合唱を担当する大友剛さんは、「大人が子どもを導こうとせずに完全に任せる環境があるからではないか」という。子どもの村では、基本的に大人(教員は「先生」ではなく「大人」と呼んでいる)は教えず、子どもが自ら発見し失敗し学んでいく。子どもに質問されても「なんでだろうね」と一緒に考え調べること、とにかく子どもに任せて待つ姿勢を徹底しているという。
また、「静かにしなさい」を「今日元気いっぱいだね」、「叩いたらダメ!」を「よほど腹が立つことがあったんだね」と言い換えるなど、子どもの村の大人たちは行動を注意・指示するのではなく、今の状況を受け止めてあげる肯定的な声かけを心がけているという。「大人がポジティブな言葉で捉えてあげれば、子どもたち自身で次のステップに進めます」(大友さん)
大友さんは、自身の子どももこの小学校に通っていた。子どもは「常にどんな時でも自分の思っていることを素直に言える環境がある」と言っていたそうだ。徹底して子どもに委ねる“共育”の姿勢が、自己肯定感が高く探究心溢れる子どもたちを育んでいるのだろう。
(後編に続く)
映画「夢みる小学校」8月まで全国劇場で上映予定
(写真は公式HPより)