高校の新しい学び「探究学習」で、未来社会を生きる力を育む

この4月から、高校で新しい学習指導要領の実施が始まった。新学習指導要領で注目されるキーワードは「探究」だ。必修科目「総合的な学習の時間」は「総合的な探究の時間」に変わり、「古典探究」「日本史探究」「理数探究」といった新設科目にもキーワードが見て取れる。

教育分野において、近年注目されるようになった「探究」とは、一体どのような学びなのか、そしてどんな狙いがあるのだろうか。探究を学んでこなかった大人世代にもわかりやすく解説する。

「探究」とは?

辞書を見てみると、探究は、「探し、究める」と書くように、物事の本質や意義を探り、見きわめようとすること。つまり物事について、調べ、研究し、深く考えて、その本質を明らかにしようとすることを意味している。

ある物事を得ようと探し求める「探求」とは、意味が異なっている。

現代に必要な学びとは

従来の教科学習では、知識の量とその正確さが評価されることが多かった。しかし、社会情勢が激しく変化する不確実な時代において、学ぶべきことはその時々で変わり、複雑で答えのない現代社会では準備された解答を導き出す力が役立つとは限らない。

文部科学省 新学習指導要領リーフレットより

こうした時代背景から、今まで重視されてきた知識・技能に加えて、「未知の状況にも対応できる思考力・判断力・表現力」や、「学んだことを人生や社会に生かそうとする学びに向かう力や人間性」など、3つの力をバランスよく育むことが、新しい学習指導要領の目指すところだ。

これを実現するために、「主体的・対話的で深い学び」の実践が求められている。「主体的・対話的で深い学び」とは、知識を受け身で習得するだけではなく、生徒が自ら周りの人たちと共に考え、新しい発見や豊かな発想が生まれるような学びだ。具体的には、前者は教員が前に立って講義する一斉授業で、後者はグループワークやディベートといった活動になる。

主体的・対話的で深い学びの実践

主体的・対話的で深い学びは小中学校の学習指導要領でも謳われているが、高校ではこれを探究的な学習によって実現しようとしている。

高等学校学習指導要領より

探究学習は、生徒自らが課題を設定し、解決に向けて情報を収集・整理・分析したり、周囲の人と意見交換・協働したりしながら進めていく学習活動のこと。探究学習を通して、生徒の思考力や判断力、表現力などの育成を目的としている。(1)課題の設定(2)情報の収集(3)整理・分析(4)まとめ・表現、という学びのサイクルを繰り返すプロセスを通して、生徒たちが身の回りの課題を発見し、解決していくための資質・能力を育成する。

以前も「探究活動」として、実験や観察を通した仮説検証を伴う課題解決的な学習が行われてきたが、今後はこうした学びがさらに重視されることになる。

探究学習で課題を発見&解決

では具体的に、どのような教育プログラムがあるのだろうか。昨今、地毛を黒髪に染髪させるといった、いわゆる「ブラック校則」が話題になっている。こうした課題について検討するプロジェクトを一例として紹介する。

認定NPO法人カタリバ(東京都杉並区)は、「ルールメイカー育成プロジェクト」を2019年度に発足した。これは、学校における慣習・ルールなど、「変えられないもの」だと思い込み、疑ってこなかったものを題材に、生徒・教員・保護者が対話を重ね、その存在意義や捉え直しを民主的に行い、合意形成、意思決定をする力を育むプログラムだ。

実証事業を行った学校では、生徒たちが校則に対する意見を広く集め、それをもとに新しいルールを計画し、さらにそれに対し意見を収集し分析、新ルールを立案し、学校との合意を経て施行に至った。

こうした取り組みを通して、生徒の思考や行動の変容、生徒の声が尊重される学校風土や生徒・教員・保護者の新しい関係性の醸成が期待される。

同プロジェクトは、現在では「みんなのルールメイキング」として、全国の学校42校に広がっている。

大学入試にも変化

こうした探究学習は、知識の量と正確さを重視する大学入試には直結せず、受験学年が近づくにつれ軽視される傾向がある。

そこで文部科学省は大学入試制度の見直しを進め、現在では筆記試験だけでなく、高校在学中の活動実績等も選考対象とする「総合型選抜」を採用する大学が増えてきている。今までやってきたことや、これから大学・社会でやりたいことを入学前に明確にしておくことで、「入試に合格すること」がゴールになりがちな一般選抜の受験者に比べて、大学入学後の学習が進みやすい等の効果が見られはじめている。

日本の教育はこれまで、言われたことを忠実にこなす人材を安定的に輩出し、経済成長を成し遂げた。しかし時代は変わり、教えられたことを覚えるだけでなく、自ら課題を見出し、他者と協働しながら解決していく力などを育むことが、今求められている。これは未来を担う若者だけでなく、彼らを社会で迎え入れる私たちにも必要なことだろう。

 

参考資料:
文部科学省ホームページ
田中博之『探究授業の創り方』学事出版、2021年

(写真はイメージ)