天の川銀河の中心にある巨大ブラックホールの撮影に初めて成功

天の川銀河の中心にある巨大ブラックホールの撮影に初成功

国立天文台は12日、世界各国の80の研究機関で300名以上の研究者が関わる国際研究チーム「イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)・コラボレーション」が、地球サイズの仮想的な電波望遠鏡EHTを用いて、私たちが住む天の川銀河の中心にある巨大ブラックホールの撮影に初めて成功したと発表した。この成果は、多くの銀河の中心に存在すると考えられている巨大ブラックホールの働きについて貴重な手がかりを与えるもので、米国の天体物理学専門誌『アストロフィジカル・ジャーナル・レターズ』特集号に同日掲載された。なお、「イベント・ホライズン(事象の地平面)」とは、光すらも脱出できないブラックホールの境界を指しており、光速を超えることができない以上、この境界の内側で起こる事象を私たちは知ることができない。

これまで天の川銀河の中心領域に、「いて座A*(エースター)」と呼ばれる非常に重く、コンパクトで目に見えない天体が存在し、その周りを星々が回っていることが観測されていた。この天体は間接的な証拠からブラックホールであると考えられてきたが、ブラックホールは光を放たない漆黒の天体であり、そのものを見ることはできない。今回、周囲で光り輝くガスによって、明るいリング状の構造に縁取られた中心の暗い領域としてその存在がはっきりと写しだされ、いて座A*がブラックホールであることを示す初めての視覚的かつ直接的な証拠となった。

今回観測したブラックホールは太陽の400万倍の質量を持ち、地球から約2万7000光年の距離にあるが、その見かけの大きさは月の上のドーナツほどの大きさしかない。これを撮影するため、研究チームは世界各地の8つの電波望遠鏡を結んだ観測ネットワークを作り、地球サイズの望遠鏡を仮想的に作り上げた。EHTは2017年にいて座A*を複数晩に渡って観測してデータを取得し、5年間にわたる緻密な解析で今回の画像を得ることができた。

天の川銀河の中心にある巨大ブラックホールの撮影に初めて成功

EHTは2019年にもM87の中心にある巨大ブラックホールの画像を発表している。M87は、いて座A*よりもずっと遠く5500万光年かなたにある楕円銀河だ。いて座A*はM87の巨大ブラックホールよりもはるかに近くにあるが、今回の成果の達成にはM87の場合よりもはるかに困難を極めた。いて座A*もM87ブラックホールも周りにあるガスはほとんど光速に近い同じ速度で運動する。しかし、大きなM87ブラックホールの周囲をガスが一周するのには数日から数週間を要するのに対し、いて座A*ではわずか数分しかかからない。これはいて座A*周囲のガスの明るさや模様が、観測中に激しく変化することを意味している。M87ブラックホールは構造が安定しており画像化も容易だったが、いて座A*の場合にはさまざまな画像を平均する必要があった。そのため、最終的な画像や物理的な解釈に至るまでの全ての工程で、スーパーコンピュータを用いた非常に大規模な計算が行われ、20万通り以上のパラメータの中から最適な数千の組合せが選ばれ、いて座A*の画像が得られた。

天の川銀河の中心にある巨大ブラックホールの撮影に初めて成功

EHT Collaboration(EHT画像)、EAVN Collaboration(EAVN画像)

最大級のブラックホールと最も小さい部類のブラックホールという大きさの異なる2つの画像が得られたことにより、両者を比較・対比して、ブラックホールの周りでのガスの振る舞いに関する理論やモデルのさらなる検証も始められている。まだ完全には理解されていないこうしたガスの振る舞いは、銀河の形成と進化において重要な役割を果たしていると考えられる。

画像提供:国立天文台