トンガ火山噴火から考える、新たな津波研究の必要性 防災科研と東大
防災科学技術研究所(以下、防災科研)と東京大学地震研究所は13日、2022年1月に発生した南太平洋トンガ諸島のフンガ・トンガ-フンガ・ハアパイ火山の大規模噴火に伴って生じた地球規模の津波発生と伝播メカニズムを解明し、地震による津波とは異なる火山噴火を考慮した新しい津波研究の必要性を示した。研究の詳細は、12日(米国東部時間)に米国の学術誌「Science」にオンライン掲載された。
今年1月15日に南太平洋トンガ諸島のフンガ・トンガ-フンガ・ハアパイ火山で発生した大規模噴火に伴って、地球規模で伝播する津波が発生した。この津波は地震で起きる通常の津波よりも早く伝播し、また火山から遠く離れた場所でも津波として観測されるという特徴があった。
この現象の原因となったのは、「ラム波」という大気中を伝わる特殊な波の一種である。多くの大気波動は大気中を3次元的に伝わるが、ラム波は地表面上を2次元的に水平方向のみに伝わる。そのため上空に向かってエネルギーが逃げることがなく、大気下層にエネルギーを保ったまま遠方に伝わることができる。伝播速度は音速(340m/s)より少し遅い約300m/sである。海面ではラム波が海水を強制的に持ち上げることにより、ラム波と同じ速度で海面の隆起の波が伝播する。これは一般的な津波の速度(約200~220m/s)よりもかなり早い。
火山噴火と海底地震での津波発生メカニズムの違いが明らかに
研究グループはラム波による津波の発生・伝播過程の数値シミュレーションを実施した。先ず、世界各地で観測された大気圧データを基に、ラム波が火山から300m/sで伝播すると仮定してラム波の伝播シミュレーションを実施し、大気圧変化を計算した。続いて、気圧変化による津波の発生・伝播シミュレーションを実施し、津波による海面の波高変化を計算した。最後に上記の計算結果を基に、海底における水圧変化を計算した。
世界の海底水圧観測網で観測された実際の水圧変化の波形とシミュレーション結果を比較すると、ラム波で伝搬する第一波の部分がよく一致していた。第一波の到達時間はラム波の到達時間とおおむね一致して、通常の火山を波源として起こる津波の到達時間よりも2~3時間も早かった。計算機シミュレーションによってラム波が通常の津波より速く、強制的に太平洋全体に津波を伝播させたことを実証できた。
その一方で、一般的な津波の到達予想時刻の前後における波形の再現性はさほど高くなかった。これはこの部分の波形には今回のシミュレーションで考慮しなかった噴火に伴う海底の地殻変動(海底地形の変化や山体の崩壊)に由来する津波や、「大気重力波」による津波の寄与が含まれているためである。
大気重力波は大気の浮力に由来する復元力が伝える波であり、おおむね津波の速度で伝搬する。速度が近いために大気重力波と津波の間で共振が生じ、遠方でも津波の振幅が増大する。この部分の津波を精度よく再現するためには、津波波源付近の地域においてどのような海底の地殻変動が生じたかを詳しく明らかにするための現地調査をはじめ、大気重力波の励起量や伝播過程に関する研究が必要である。
同グループは、今回の研究により、いくつかの知見を得られたとしている。
第一は火山噴火による津波においては大気圧変化を無視できないということだ。地震による津波については、大気圧変化は無視できるほど小さかったが、今回の場合は大気圧変化の振幅が大きいラム波が第一波となった。ラム波による津波の高さを見積もるには大気圧観測データなどの利用が重要である。
第二には大気重力波に由来する津波の波高の予測が難しいということだ。遠方で共振によって大きな波高となる大気重力波による津波の波高を予測するためには、大気圧観測データなどを利用して大気重力波の励起量を高い精度で即時的に見積もることが重要となる。そのためにはグローバルな大気圧観測ネットワークの記録や気象衛星の観測データなどの活用、そして噴火に伴う大気の波(ラム波、大気重力波)の生成の物理メカニズムといった火山学的な知見も必要となる。
このように火山噴火による津波の発生メカニズムが海底地震による津波とは異なることから、同グループは、今後は火山噴火も考慮した新しい津波研究の展開が必要だとした。
画像提供:防災科研(冒頭の写真はイメージ)