東北大が生体骨に近い特性の金属材料を開発。人工関節への応用に期待

東北大が生体骨に近い特性の金属材料を開発 人工関節への応用に期待

東北大学は19日、柔らかさと高い耐摩耗性・耐食性を両立させた生体骨に近い特性の金属材料の開発に成功したと発表した。人工関節、インプラントなどへの応用に期待できる。この研究結果は9日付のドイツ科学誌「Advanced Materials」に掲載された。

超高齢社会の進行に伴って骨や関節の疾患治療のために生体内に埋入して治療に用いられるインプラントと呼ばれる生体材料の需要が高まっている。インプラントには優れた耐摩耗性と耐食性が求められる。金属材料の場合は高い強度を有するが、しなやかな生体骨とは力学特性が大きく異なり、特にヤング率*が高いことが問題になる。生体骨のヤング率が約 10~30GPaであるのに対し、ステンレス鋼やコバルト-クロム(CoCr)合金でのヤング率は約190~240GPaと高い。インプラントのヤング率が骨よりも高いと、力のほとんどはインプラントにかかって周囲の骨に伝わらないため、骨が萎縮し骨密度の低下や骨折リスクの上昇につながる。そのため、生体骨と同等の低いヤング率を持つ新規金属材料の開発が求められてきた。

研究グループは生体用金属材料としてコバルト(質量の58~59%)とクロム(33~34%)を主成分としてアルミニウムとシリコン(合計8%)を添加した新たなCoCr合金を開発した。このCoCr合金は既存のCoCr合金と結晶構造が異なり、荷重をかける方向によって弾性率が異なる異方性の性質を持ち、ある方向においては骨と同程度の10~30GPaという低いヤング率を示す。一般的な生体用金属材料においてはヤング率と耐摩耗性はトレードオフの関係にあるが、この合金はヤング率は低く、耐摩耗性は既存のCoCr合金に匹敵するほど高い。

東北大が生体骨に近い特性の金属材料を開発。人工関節への応用に期待

開発した新規 CoCr 系生体用金属材料単結晶

またこの合金は17%程度の極めて大きな変形を与える荷重を加えても、それを取り除くだけで元の形状に回復する超弾性を持つ。一般に通常の金属材料は弾性変形として最大1%程度しか形状が回復せず、最先端医療で使用される超弾性合金のニッケル-チタン(NiTi)合金でも8%であった。

この研究によって低いヤング率、高い耐食性、高い耐摩耗性および優れた超弾性特性を併せ持つ生体材料を開発することができた。今後、これらの特性を生かして人工関節、ボーンプレート、歯科インプラントおよび脊髄固定器具などへの応用が期待される。

*ヤング率…材料を引張もしくは圧縮で弾性変形させたときの変形ひずみに対する応力の比。

写真提供:東北大(冒頭の写真はイメージ)