通信障害の際に知っておきたい、インターネットの仕組みと輻輳
7月2日から発生したKDDIの大規模通信障害において、その原因となった「輻輳」という現象がにわかに注目されるようになった。今やインフラとして水道や電気のように、なくてはならないものになったインターネットのつながる仕組みと、今回問題になった輻輳について解説する。
さまざまな種類のプロトコル
コンピュータ同士がデータのやり取りをするときの約束事のことをプロトコルという。その中の一つが「TCP/IP」であり、アメリカで研究機関や大学を結ぶネットワークにおいて、通信のプロトコルとして1970年代前半に開発された。プロトコルのソフトウェアが行う複数の手順を階層化すると、下記の表のようになる。
表:プロトコルの階層モデル
層 |
機能イメージ |
プロトコル |
第7層 |
アプリケーションに特化された部分 |
FTP、SMTP、POP、IMAP、HTML、HTTP、TELNETなど |
第6層 |
データフォーマットの変換 |
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第5層 |
コネクションの確立・切断 |
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第4層 |
データ転送の信頼性の管理 |
TCP、UDPなど |
第3層 |
宛先までデータを届ける |
IPv4、IPv6など |
第2層 |
直接接続された機器間の通信 |
LANケーブル、無線LAN、デバイスドライバなど |
第1層 |
物理層 |
第2層まではハードウェアに依存するところが多く、その装置固有の仕組みとなる。第3層と第4層は、ネットワーク内の宛先にデータを送り届ける実質的な仕事を担い、第5層以上はユーザーが実際に使うアプリケーションの内部で通信を管理している。ここでのプロトコルは、Webサイト閲覧用のHTMLやHTTPなど一般ユーザーにも馴染みがあるものが多い。
インターネット通信に欠かせないTCP/IPの機能
インターネットでのデータ転送を実質的に担っているのが、TCP/IPというプロトコルだ。IPは第3層、TCPは第4層のプロトコルだが、TCP/IPという場合はこの二つだけではなく、これらを用いて通信するときに必要なプロトコル群の総称を意味する。
IPはネットワーク内の指定された宛先までデータを届けるが、その宛先をIPアドレスという数値で示す。IPアドレスは住所のようなものだ。IPv4という開発当初からのプロトコルでは、IPアドレスは32ビットの整数値で、例えば「172.20.100.52」のように表す。しかし、この方式では最大で43億個という限界があるため、近年はIPアドレスを128ビットの数値で表す新しい方式のIPv6に移行するようになってきている。
第4層のプロトコルTCPは、信頼性を重視したプロトコルだ。データを送る前に宛先とのコネクションをまず確立する。会話の前に名刺交換してお互いの身元をはっきりさせるようなものだ。そして、データはあるまとまった固まりまで分割して送るが、一つ送るたびに宛先から確認応答をもらい、データが不着ならその部分の再送もする。そうして抜けや順序反転のない完全なデータを、宛先で再構成させる。そのためTCPで送るデータは時には元のデータ量よりも過大なものになり、ネットワークが混雑している時に輻輳を引き起こしやすくなる。
インターネットの交通渋滞「輻輳」
輻輳とは通信データが特定の場所に集中して渋滞してしまう現象で、よく交通渋滞に例えられる。輻輳が起きることで通信速度が落ちたり、通信ができなくなったりする。ネットワークのある個所で通信ができなくなると、他の部分にも波及して輻輳の連鎖が起きてしまう。地震などの災害時に安否の問い合わせの電話が殺到する場合や、チケット予約などで電話が集中する場合に、影響が波及して全国的に電話がかかりにくくなったりすることがあるのも輻輳によるものだ。
このような時は輻輳を制御するために対策を取るようになる。災害時の場合は音声通話の発信を規制し、緊急通報用の優先電話からつなぐようにする。しかし輻輳を制御することは難しく、一度生じた渋滞が解消するまでは長い時間がかかる。また、回復したことを通知したことによってユーザーが一斉にアクセスして、再び輻輳を引き起こしてしまうこともある。
ネットワーク上にはさまざまな機器が接続されており、古いソフトウェアしか搭載されていない機器は輻輳やセキュリティ対策が十分とは言えないものがある。また、今までなかった新しい機器をつないだ場合に、組合せによってネットワークの反応が予想外のものになることもある。今回のKDDIの通信障害も、2021年10月のNTTドコモの通信障害も、機器を取り換えたことが直接的な原因だった。
通信技術の利便性と安全性
TCP/IPなどの通信の技術は、自動運転技術やIoT(モノのインターネット)の要になるものだ。これからの社会の発展や利便性の向上において、より一層の大きな役割を果たしていくと言える。
利便性と安全性を両立させるためには輻輳制御やセキュリティ対策が必要で、その技術も進歩している。しかし、完全なセキュリティを実現することが難しいように完全な輻輳対策も難しく、今回のような通信障害は今後も発生する可能性がある。その際は慌ててさらに輻輳を発生させる行為に及ぶことなく、Wi-Fiなどの代替手段に頼るなど適切な行動が取れるようにしたい。また、大規模通信障害を災害として捉えての公共の対策も望まれる。
【参考文献】
『マスタリングTCP/IP入門編』(オーム社)
(写真はイメージ)