海底の微生物の生息実態とその温度限界を解明 海洋研究開発機構など

海底面下を透視する、深海底生生物の非接触調査技術を開発

東京大学、海洋研究開発機構(以下、JAMSTEC)、産業技術総合研究所(以下、産総研)は27日、深海の堆積物中に生息する底生生物(以下、埋在性生物)の3次元的な分布を、高周波の超音波を応用して非接触で効率的に調査できる技術を開発したと発表した。これまで把握が困難だった海底面下に生息する埋在性生物の分布や生態が明らかになり、海洋開発や気候変動が埋在性生物に与える影響などを理解するための新しいツールとして役立つことが期待される。この研究成果は、英国科学雑誌「Scientific Reports」に27日に掲載された。

地球上に広がる海洋空間の95%以上を占める深海には、多様な埋在性生物が生息しており、炭素や窒素などをはじめとする物質循環系を維持する上で極めて重要な要素となっている。深海生態系への環境影響を評価するためには、埋在性生物の分布や多様性などの定量化が不可欠だが、その生物相や環境動態をモニタリングするための有効な技術がなかった。

東京大学大学院新領域創成科学研究科の水野勝紀准教授、JAMSTECの野牧秀隆主任研究員、産総研の清家弘治主任研究員らの研究グループは、課題解決のために新しいコンセプトの海底調査ツールA-core-2000を開発した。このシステムは、高周波の集束型超音波センサと専用の防水モーターを搭載した2軸フレームで構成され、海底下を高い解像度で3次元的に可視化することができる。

このA-core-2000をJAMSTECが所有する有人潜水調査船「しんかい6500」に搭載し、静岡県初島沖の相模湾深海において実証試験を行った。シロウリガイのコロニー周辺で測定したところ、幼体を含む約17個体のシロウリガイの空間分布とそのサイズを可視化・定量化することに成功した。シロウリガイの幼体は殻が完全に海底下に潜った状態で生息するため、これまで光学カメラなどでは確認が困難だった。今回開発したA-core-2000を用いることで、埋在性生物の空間的な分布を、定量的に調査できることが世界で初めて示された。

このシステムは非破壊・非接触での継続的な観測が可能であることから、時系列にその分布を把握することもできる。このシステムを用いた深海の大型埋在性生物の調査とその空間分布の把握は、深海底生態系が地球規模の物質循環に果たす役割を理解する上で極めて重要な情報を与える。今後は、資源・エネルギー開発や気候変動が埋在性生物に与える影響の把握や、地球化学的な物質循環の理解、水産資源の分布調査などに応用する予定。

しんかい6500に搭載されたA-core-2000
観測イメージ

画像提供:産総研(冒頭の写真はイメージ)

 

参考記事

海底下の極限環境微生物の高い代謝活性を解明 JAMSTEC(2022.01.31)