9月1日は防災の日。各企業で見直しておきたいBCPとは

9月1日は防災の日 各企業で見直しておきたいBCPとは

近年、異常気象による大型台風の襲来や集中豪雨による河川の氾濫、猛暑による干ばつなどにより、自然の影響を直接受ける第一次産業は多くの被害を受けている。さらには、諸外国の治安の悪化などによる輸出入の停止、物価高騰、コロナウイルス蔓延などによって第二次、第三次産業まで影響を受け、いつ外部の環境の影響で事業が継続できなくなるかわからない状態が増えている。

2006年2月に経済産業省中小企業庁が公開した「中小企業BCP策定運用指針」には国内企業の99%以上を占める中小企業が、緊急事態のときのために備え、いざその時になったら迅速に復旧できるようにするための手引きが記されている。まさに近年の未曾有の事態に対処するために必要とされるものだが、実際のくらい浸透しているのだろうか。防災の日を迎え、今一度、緊急事態のときにどのように事業の継続をするのか、「中小企業BCP策定運用指針」をおさらいしてみたいと思う。

BCPとは

まず、BCPとは「Business Continuity Plan(事業継続計画)」のことで、「企業が自然災害、大火災、テロ攻撃などの緊急事態に遭遇した場合において、事業資産の損害を最小限にとどめつつ、中核となる事業の継続あるいは早期復旧を可能とするために、平常時に行うべき活動や緊急時における事業継続のための方法、手段などを取り決めておく計画」(中小企業庁HPより)のこと。欧米では広く普及しており、日本では2006年に中小企業庁から中小企業向けの作成指針が公開されている。
BCPの特徴として大事なポイントは以下の5つとなる。

  1. 優先して継続・復旧すべき中核事業を特定する
  2. 緊急時における中核事業の目標復旧時間を定めておく
  3. 緊急時に提供できるサービスのレベルについて顧客と予め協議しておく
  4. 事業拠点や生産設備、仕入品調達等の代替策を用意しておく
  5. 全ての従業員と事業継続についてコニュニケーションを図っておく

BCPを定める目的

BCPは緊急時に事業を継続するための計画だが「何のために事業を継続するのか」という目的を確認したい。中小企業庁では事業の継続を図るのは「顧客からの信用」・「従業員の雇用」・「地域経済の活力」を守るためであることを明記し、それを各企業の言葉に直してBCP基本方針とするように促している。

BCP策定の際の要点

BCPは大企業から中規模、家族経営など経営規模に関係なく策定・運用できるが、中小企業で重視したい点としては以下の点が挙げられている。

  • 企業同士で助け合う
  • 緊急時であっても商取引上のモラルを守る
  • 地域を大切にする
  • 公的支援制度を活用する

各企業はこれらを実行することで早期に、かつ正常に事業の継続・復旧が可能となるといわれている。

上記のほか、BCP策定の際には、策定・運用にかかわるメンバーの選定、取引先とのすり合わせ、従業員への周知など、周辺を巻き込んだ体制の確立が不可欠である。

過去の事例

新潟県長岡市のスーパーマーケットは、2004年の新潟県中越地震で22店舗の商品や建物に被害を受けた。その後、「震災時においても店舗を開店する」という目標を策定し、BCPに着手した。その結果、2007年の新潟県中越沖地震の際には、被災した7店舗のうち、当日に4店舗、翌日に2店舗、3日後には残りの1店舗も営業を再開することができた。2004年には復旧に1か月かかったのが、BCP策定により4日に短縮することができたことになる。
また、岩手県に工場を持つ自動車関連企業は、以前からBCPを策定し、訓練を年1回実施していた。そのため2008年の岩手・宮城内陸地震では震度6弱の揺れに見舞われたにも関わらず、発災約2時間後には本社対策本部を設置し、6時間後には支援要員を現地へ派遣、2日後には通常操業を再開できたことで生産台数への影響を回避することができた。その後もBCPの取り組みを継続し、2009年の駿河湾地震で被災した拠点でも大きな被害を防ぐことができた。

最近の事例

中小企業ではないがイオンモールは、東日本大震災以降、BCPに基づき全国各地で防災対策を実施している。同社が運営するイオンモールを地域の防災・減災の拠点となるようにほぼ全店舗で自治体と防災協定を締結。災害発生時に一時避難場所や救援・救護スペースを提供できるようにしたり、早期に店舗の営業が再開できるように自家発電施設などエネルギー供給体制を確保したりするなど、現在65か所の拠点の整備が完了している。また、防災訓練も定期的に実施し、2022年6月1日の訓練では国内外グループ95社約50万人の従業員が参加した。実践的な訓練を推進し、現場の事業継続能力の向上させることで、リスクから顧客や従業員を守ることを目指しているという。そして、現在建設が進行中の東北大学の旧雨宮キャンパス跡地(仙台市)のイオンモールは、土地本来の樹木を育て、災害時に植栽で減災できるような生態系作りや、屋外スペースも避難場所として使えるような仙台発の都市型モールとして力を入れている。

中小企業庁によるBCP運用指針の使い方

「中小企業BCP策定運用指針」は、中小企業の経営者が従業員と一緒にBCPを策定し、緊急時に備えてBCPの発動の予習を行うことを目標としている。策定のための行程を基本コース、中級コース、上級コースの3コースに分け、策定したことのない経営者から策定・運用済みの経営者のステップアップまで段階的に説明している。(中小企業HPにて)

実際にBCPを策定するとなると、ある程度まとまった時間と労力の投資が必要だ。一方で、災害時の備えとしてBCPを策定しておくかおかないかによっていざ非常事態が起きた際の事業の継続が左右されるということは、過去の事例や実体験から読み取ることができる。防災について考える機会に、自社と地域とのかかわり合いや、会社としての役割を改めて見直す機会にしてもよいだろう。

(写真はイメージ)