微生物の食料となる水素、土星の衛星エンセラダスに
東京大学の関根康人准教授らは、土星の衛星エンセラダス(エンケラドス、エンケラドゥスとも称される)の岩石が、地球の岩石の主成分であるマントルのような組成ではなく、隕石に近いことを実験で明らかにし、10月28日に発表した。微生物の食料となる水素が豊富に発生している可能性がある。
エンセラダスは、直径約500kmの比較的小さな天体だが、地下海や熱水環境が現存する点で注目を集めている。南極付近の地表の割れ目から海水が間欠泉のように噴出しており、NASAのカッシーニ探査機の分析で、海水に塩分や二酸化炭素、有機物が含まれることも明らかになっている。
研究チームは、エンセラダスの海水中に含まれる「ナノシリカ粒子」に注目した。これは、高温の海水が岩石と触れ合うことで岩石に含まれていたシリカ(二酸化ケイ素)が水に溶け、急冷することで析出したと考えられる。そこで、地球の岩石の主成分であるマントルに似た組成の岩石と、隕石に似た組成の岩石の2種類の岩石に対して熱水環境での反応を実験した。その結果、マントルに似た組成の岩石からはナノシリカ粒子を生成できず、隕石に似た組成の岩石からのみ生成し得ることがわかった。
エンセラダスの岩石が隕石に近いということは、形成初期も含め岩石が一度も溶解していないことを示す。原始地球では岩石が溶解したことで、重い鉄の多くが惑星の中心に集まり金属コアを形成した。一方、エンセラダスは岩石が溶解していないため金属コアもできず、岩石中に鉄が多く存在すると考えられる。熱水環境で鉄が酸化されると、原始的な微生物の食料となり得る水素が豊富に発生する。このことは生命の生存に有利かもしれない。
画像提供:NASA/JPL