[書評]『ハチドリのひとしずく』持続可能な世界を目指して今できることとは

地球温暖化、貧困、戦争、パンデミック、私たちの生きている世界は解決困難な問題で溢れている。その問題の大きさを前に「自分にできることは無い」「何をしても無駄なのではないか」と無力感を感じてしまう、誰しもそのような経験を一度はしたことがあるのではないだろうか。そんな時には、この本に書かれた小さなハチドリの話を思い出してほしい。

ハチドリの名前はクリキンディ。同書の前半に書かれているクリキンディの物語は、南米のアンデス地方に住む先住民族キチュアに伝わる話だという。

ある時、森が火事になる。他の動物たちが我先にと逃げる中で、クリキンディは行ったり来たり、小さなくちばしで水のしずくを一滴ずつ運んでは、火の上に落としていく。クリキンディは言う「私は、私にできることをしているだけ」

燃える森は、年々熱くなっていく地球に喩えられる。後半では、地球温暖化というあまりにも大きな問題に対して、クリキンディのように「いま、私にできること」を実践する人たちの言葉が記されている。毎日食べる分だけの食材をいきつけの商店で買うこと、砂時計を置いてシャワーを浴びること、それぞれの実践は、焼け石に水と思われがちなささやかな事かもしれないが、どんな大きな困難でも、自分たちにできることは必ずあると教えてくれる。

燃えている森はその後どうなったのか……。物語の続きを描くのはクリンディになった読者一人ひとりだ。

『ハチドリのひとしずく いま、私にできること』
監修:辻󠄀信一
発行日:2005年11月22日
発行:光文社

(冒頭の写真はイメージ)