[書評]「絶望の林業」 持続性を考え、衰退する林業に希望を
この本は日本でも多くはない「森林ジャーナリスト」として活動する田中淳夫氏が、日本の現在の林業政策に関して感じる「絶望」をあらわにする本だ。戦後の造林政策によって植えられた針葉樹林が50年以上の歳月を経て生長し、木材としては「伐り時」にある日本の森林。その森林に明確な目標もなく補助金を大量に投入する政府に対して、政策の無謀な点を指摘している。それだけにとどまらず森林を所有する山主、森林管理を請け負う森林組合、木材を切り出す素材生産者、木材を取引する市場など、それぞれの立場からの本音を取材し、政策との矛盾点をあらわにしている。
歴史を振り返ると日本の山は人口増加や戦争など、ことあるごとに、はげ山にされてきた。そのたびに洪水や土砂崩れなどに悩まされ、解決策として治山や治水のために植林して木を育てる造林政策が打ち出された。特に戦後の造林政策では、成長が早くまっすぐ育つため建材などに適する、スギやヒノキなどを植栽する「拡大造林」が実施され、現在目にする針葉樹の単一的な森林ができあがった。
しかし戦後の拡大造林政策から50年以上の月日が経った日本の森林に待ち受けていたのは、外国から輸入される木材に市場を取られ、国産材は売れないという問題だった。また、建材を生産するのは手間がかかるため、チップ材など価格の安い製品として出荷し、結局儲からないという現実だった。しかも補助金が投入されているため、儲かっていなくても事業は継続できるという赤字が恒常化した状態にまで陥っている。
このような問題を解決したくても、所有者不在の森林の多さに現状を把握しきれないという現実と、未来の森林をどうしていきたいのかという、目標を失った国の政策で現場も身動きが取れない。本書にはその問題の詳細な点まで説明されており、途中で読むのを辞めてしまいたくなるくらい絶望する。ただ、最後まで読み進める力となるのは「林業に期待する人が増えているのならば、勘違いで盛り上がるのではなく、現実と背景を知ったうえで応援することが望ましい。一度絶望しないと、その向こうにある光も見えないだろう」という前書きにある著者の言葉だ。
本書には、分量は少ないが第3部に「希望の林業」という章がある。キーワードは「持続性」「恒続性」。木材供給のためだけではない、「森林の持続性」をこれからの林業のヒントにしている。重要なのは森づくりの指針であり、木材の生産を目標としない、森林の生態系を健全にすることが大前提だと、田中氏は語る。
現在、伐採された後、再び植林されているのは4~5割程度。林業従事者の高齢化もあり、「はげ山」のまま放置されているところも増えている。このままでは、過去のような災害を再び繰り返しかねない。森林の多面的な機能が生かされる森づくりをめざして、本書を通して多方面から考えていきたい。
著者:田中淳夫
発行:新泉社
発行日:2019年8月17日
(冒頭の写真はイメージ)