守る森林と使う森林 〜日本人にとって森林とは何か
日本の森林率は国土のおよそ70%を占め、先進国ではフィンランドに次ぐ割合を占めている。しかし、「森林」と一言で言っても、国有林、民有林、保護林、水源涵養林、など様々な目的や用途、管理者の違いによって名前が付けられ、それぞれ法律や条例などで用途を制限されたり、または活用されたりしている。
近年は環境保護の意識が高まりと地球温暖化防止の観点から木を伐採するのは悪のような見方をされることもあるが、もともと日本人は木から食器、農具や家具など身の回りにあるすべてのものを作ってきた歴史もあり、また木は現在も建設材料としての用途もある。
しかし、一概に環境保護や利用と言っても、どの木を守って、どの木なら伐ってもよいのか、またどんな目的で森林は守られているのか、専門家でないと分からないことも多い。そこで 、今回は森林を「守る森林」と「使う森林」に区分して見ていこうと思う。
守る森林~国立公園、国定公園、自然遺産~
・国立公園と自然公園法
日本には自然公園法という「我が国を代表する優れた自然の風景地を保護するとともに、その利用の増進を図ることにより、国民の保健、休養及び教化に資するとともに、生物の多様性の確保に寄与する」ことを目的にした法律があり、国立公園と国定公園が設置されている。この目的に当てはまる自然の風景地を環境大臣が指定し、国立公園は国が、国定公園は都道府県が管理している。また公園計画を立て、保護するべき地区や適正な利用を図る地域を定め、土石の採取や木竹の伐採などの行為を規制している。
2019年(令和元年)9月時点で、国立公園は34カ所、国定公園は56カ所あり、合計で360万haになり、国土の9.5%を占める。公園内に保護地区はあるものの許可をとれば開発も可能であり、「利用の増進を図る」という目的でビジターセンターや歩道が作られているところもある。基本的には国や都道府県が管理しているが、公園といえども土地の所有者は国ではない箇所(民有地)もあり、その場合は、人と人の暮らしや産業などと調整を図りながら管理を進めている。
※参考
https://www.env.go.jp/content/000062513.pdf
・世界自然遺産
屋久島、白神山地となどは、日本の法律ではなく世界的な条約で保護されているのは世界遺産である。世界遺産を守っているのは1972年11月にユネスコ(国際連合教育科学文化機関)の総会で採択された「世界の文化遺産および自然遺産の保護に関する条約(世界遺産条約)」であり、日本は1992年に締結している。
この条約の目的は「世界で唯一の価値を有する遺跡や自然地域などを人類全体のための遺産として損傷又は破壊等の脅威から保護し、保存し、国際的な協力及び援助の体制を確立する」こと。世界遺産には「自然遺産」「文化遺産」、この両方の価値をかねそなえている「複合遺産」がある。日本の世界自然遺産は4カ所登録されており、知床、白神山地、小笠原諸島、屋久島である(ちなみに富士山は世界文化遺産)。
世界自然遺産に登録されると、その価値を将来にわたって維持していくために、適切に保護管理することが必要になるため、国の法律や制度等に基づく保全措置が講じられる。
※参考
https://www.env.go.jp/nature/isan/worldheritage/info/index.html
https://www.env.go.jp/content/900492886.pdf
・保安林と保安林制度
保安林とは「水源の涵養、土砂の崩壊その他の災害の防備、生活環境の保全・形成など特定の公益目的を達成するために、農林水産大臣又は都道府県知事によって指定される森林」(林野庁HPより)のこと。
保安林は目的によって17種類あり、最も割合が多いのは、河川への流量調節機能を高度に保ち、洪水の緩和、各種用水を確保する「水源かん養保安林」。その次は下流に重要な保全対象がある地域で、土砂流出や崩壊などの恐れのある地域の土砂の流出を防止する「土砂流出防備保安林」となっている。また保安林の面積は日本の森林面積の約5割となり、国土の面積の約3割を占めている。
立木の伐採や土地の形質の変更には都道府県知事の許可が必要になる。伐採する場合には、保安林の指定目的を達成するため、伐採方法や、伐採後の植栽の方法、樹種などが定められている。
※参考
https://www.rinya.maff.go.jp/j/suigen/suigen/con_2.html
https://www.rinya.maff.go.jp/j/tisan/tisan/con_2.html
使う森林~人工林、里地里山~
・人工林
人工林とは人間が人工的に植えた木が生えている林のことで、日本だと約7割がスギやヒノキである。日本の森林面積の約40%は人工林であり、現在植えられているのは戦後の過度な伐採による山地の復旧や高度経済成長木に植えられたものが多い。
人工林の中でも国有林の場合は林野庁が地域の実情に合わせて管理経営を行っており、民有林の場合は山の所有者個人が管理するか管理を森林組合などに委託している。
基本的に植えられた木は、木材として使いやすい太さになると伐られ、市場に出荷される。その後、製材所で板や角材に加工され、建設材料などに使用される。木が伐採された山には再び苗木が植えられ、下草刈りや間伐などを行いながら管理される。現在、戦後に植えられた木が木材として利用するのに適した時期に来ており、伐採の推進と新たな苗木を植える取り組みを進めている。
※参考
https://www.rinya.maff.go.jp/j/sin_riyou/kafun/data.html
・里地里山などの二次林
二次林とは人手が加わり、自然に再生した森林のことを指し、薪や炭、シイタケの原木を採取するために木を伐採したあと、切り株からでる萌芽によって 自然に再生した森林のこと。
また、里地里山とは(里山とだけ言われることもある)「原生的な自然と都市との中間に位置し、集落とそれを取り巻く二次林、それらと混在する農地、ため池、草原などで構成される地域」のこと(自然環境局HPより抜粋)で、里山とだけ言われることもある。
里地里山のような森林は人の手が適度に入ることで持続可能な自然資源の利用がなされながら、生物の多様性が生まれている。しかし、現代の生活では森から木を日常的に採取することもないので、里山が放置され、地域の生物多様性に悪影響が出ているところもある。そのため、「SATOYAMAイニシアチブ」として日本で確立された地域環境が持つポテンシャルに応じた自然資源の持続可能な管理・利用のための理念や取り組みを発信し、世界各地の自然共生社会の実現に生かしている。
※参考
https://www.env.go.jp/nature/satoyama/top.html
https://www.env.go.jp/nature/satoyama/satonavi/initiative/bunken/107.html
以上のように森林と一言で言っても色々な種類の森林があり、それぞれ森林が果たす目的のためにルールが作られ適正な保護や利用がなされるように守られている。これ以外にも、個人宅の周辺に植えられた屋敷林、道路のそばに植えられた街路樹など、人々の身近にある木々もある。それぞれがどのような目的がある森林なのか、どのような機能が発揮されている森林なのかにも注目して見てみると、自然の恩恵に気づくことができるかもしれない。
(冒頭の写真はイメージ)