骨伝導ヘッドホンの音声了解度を改善、騒音環境でも明瞭な聞き取りが可能に JAIST
北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)の研究チームが、骨伝導で音声を聞く際の了解度(どれだけ正確に相手に伝わるかを表す値)が低下する原因を明らかにし、了解度を改善する技術を開発した。騒音のある環境でもヘッドホンなどで耳を塞ぐことなく、明瞭かつ正確に音声を聞き取ることができ、補聴器やウェアラブルデバイスへの応用が期待される。エルゼビア社の学術雑誌「Applied Acoustics」に2023年5月に掲載された。
骨伝導ヘッドホンは、耳を塞がずに音声を骨伝導で聞くことができるため、音声と同時に周囲の音を鼓膜で聞くことができるのが利点だ。しかし、鼓膜で音声を聞く場合に比べて音質や了解度が低下するのが課題だった。耳栓をすれば音声了解度は上がるが、周囲の音を同時に聞くことができる利点を失ってしまう。そこで、耳を解放した状態で骨伝導音声の音質低下や音声了解度の低下を防ぐ方法が求められていた。
今回、骨伝導音声の伝達経路に着目し、測定可能な側頭部振動と外耳道内放射音の2つの伝達特性を測定した。その結果、どちらの場合も骨伝導音声は鼓膜で聞く音声と比べて高域の成分が減衰しており、これが骨伝導音声の了解度低下の原因と考えられた。そこで、事前に高域の成分を強調して補償することを考え出した。直線的な高域減衰を補償する一次高域強調と、微細なスペクトル変形を補償する高次高域強調という2つの手法について、側頭部振動と外耳道内放射音で了解度を改善できるか試験したところ、側頭部振動についてはどちらの高域強調手法でも騒音環境で了解度を効果的に改善できた。
この研究は産業向けウェアラブルデバイスの開発・製造等を手掛けるウエストユニティス株式会社との共同研究であり、同社が開発した産業用スマートグラスにこの成果が採用されている。今後はウェアラブルデバイスへの応用だけでなく、補聴技術への応用や災害現場などの高騒音環境での音声コミュニケーションデバイスとしての拡張も展開していくという。
画像提供:JAIST(冒頭の写真はイメージ)