酵素を“だまして”メタノールに変換、メタン活用への新技術 名大
名古屋大学の研究チームが、酵素を“だまして”メタンをメタノールに変換する技術を開発した。反応効率はまだ改善の余地があるものの、環境に優しいメタンの利用法を開拓する可能性を秘めている。6月16日付でアメリカ化学会の触媒化学専門誌「ACS Catalysis」でオンライン公開された。
メタンは天然ガスの主成分であり、日本近海にはメタンハイドレートとして豊富に存在する。メタンは化学的に非常に安定しており、別の分子に変換するには多くのエネルギーを要する。このためメタンをメタノールに変換するのは、炭化水素の水酸化反応における最も難しい反応と言われてきた。一方、自然界には常温かつ水中で、メタンをメタノールに変換する「メタンモノオキシゲナーゼ」という酵素が存在している。この酵素は巨大で複雑な構造をしており、扱いが難しく大量生産には不向きなため、大量合成が容易な別の酵素でメタンをメタノールに変換できることが期待されていた。
同研究チームでは以前から、分子を酵素に加えることで酵素の特性を変化させ、本来は変換できない化合物を変換できる「基質誤認識システム」と名付けた手法を開発してきた。このシステムでは、酵素が本来受け付けるはずの化合物(基質)に形を似せた「おとり分子」を加えることで酵素が誤認して活性化され、本来は反応しない物質を間違えて変換することができる。
今回、メタンの水酸化を実現するために、シトクロムP450BM3と呼ばれる酵素の反応ポケットに最適な構造を持つ「おとり分子」を探索した。約600種類の候補の中から、これまでエタンの水酸化等で有効だと判明しているものを中心に約40種類を調査し、最も効率の高い「おとり分子」では、常温かつ水中で酵素1分子が4分子のメタンをメタノールに変換できた。P450BM3が属するP450酵素群は、自然界に数万種類存在するが、メタンをメタノールに変換できるものはなく、化学的に合成した「おとり分子」によってメタンの水酸化能力を与えることができた。
さらに、「おとり分子」を変更することで、メタンよりも難易度が低い様々な化合物の変換にも応用でき、低環境負荷の物質変換技術として酵素の利用促進に貢献すると期待されている。
(写真はイメージ)