原発ALPS処理水でヒラメを飼育試験、トリチウムの影響を検証
東日本大震災で被災した福島第一原子力発電所では、溶け落ちた核燃料を冷やす際に生じる放射能汚染水からトリチウム以外の放射性物質を取り除いたALPS(アルプス)処理水が、敷地内のタンクに溜められ続けてきた。その量は7月20時点で約134万m3に上るが、これは25mプール2230杯分に相当するとてつもない量だ。
2021年4月、菅内閣はALPS処理水を海水で希釈した後に海洋放出すると決定したが、処理水に多く含まれる放射性物質トリチウムが福島県沖の魚介類に蓄積し、放射能汚染によって漁業者や消費者に実害が生じるとの風評被害が心配されてきた。この不安を払拭するため、東京電力(以下、東電)は2022年9月からALPS処理水でヒラメを飼育し、生育状況に差がないか、また生物濃縮*1が起きないかを調査してきた。
ヒラメは次の3種類の海水で飼育されており、東電HP上に飼育日誌が公開されている。
1.普通の海水
2.海洋放出時のトリチウム濃度(1500ベクレル/L未満)の海水
3.海洋放出トンネル出口付近濃度(30ベクレル/L)の海水
飼育試験の結果、トリチウムの有無や濃度による生残率*2に有意な差はなく、共に9割を超えている。また、海水1で飼育したヒラメを海水2の水槽に入れて一定時間経過後に海水1に戻す試験を行ったところ、トリチウムは生物濃縮しないことが示された。海水2で飼育したヒラメにはトリチウムが徐々に入っていく(黒線)が、水槽中のトリチウム濃度(水色)を超えることはなく、海水1に戻すと短時間で排出されることが分かった。
この飼育試験は目に見えない放射線の影響を「見える化」し、トリチウムは水素と性質が同じで魚介類に生物濃縮しないことを示す一つの根拠となるだろう。
ALPS処理水については、経済産業省の特設サイトでも詳しい情報が公開されている。正しい知識を身につければ、風評(デマ)に惑わされず無用な不安に駆られることもないだろう。
*1生物濃縮:食物連鎖を通じて毒素や化学物質が生物体内に蓄積する現象で、食物連鎖上位の大型捕食者ほど濃縮される。
*2生残率:調査や各種試験による引き上げ数を除外して算出された生存率。
画像提供:東京電力(冒頭の写真はイメージ)