九州大学、新しい発想の水素エネルギーキャリアを開発

水素を貯蔵・運搬する「エネルギーキャリア」を新たに開発 九州大学

九州大学は28日、常温で水素から直接的に電子を抽出できるニッケル化合物を開発したと発表した。新しい発想の水素エネルギーキャリアとして期待できる。この研究成果はドイツの科学誌に発表された。

2050年までにCO2の排出を全体としてゼロにする「カーボンニュートラル」を実現するために、化石燃料に代わるクリーンなエネルギーとして着目されているのが水素である。水素社会の実現を進めるためには、気体のままでは貯蔵・運搬の効率が低い水素を、多くのエネルギーを使わずに液体や水素化合物にして貯蔵・運搬できるようにする「エネルギーキャリア」の確立が求められている。これまでに、アンモニア、金属水素化物、錯体水素化物などの研究が行われてきたが、最終的な確立には至っていない。また、ロジウム(Rh)やイリジウム(Ir)などの白金族元素を触媒として、水素から電子を取り出す反応が知られているが、コストも高くエネルギーキャリアとして用いるには現実的ではなかった。

九州大学の研究グループは、常温で水素を合成・分解する天然のヒドロゲナーゼ酵素に着目。それと同様の反応を起こす触媒を探求し、今回の研究では安価な鉄族元素のニッケルを使用した。ニッケル化合物は常温でH2から1電子を抽出する。取り込まれた電子はニッケル化合物中で3か月以上安定的に貯蔵できる。水素を保存している状態はニッケルの酸化数が+1で、これはヒドロゲナーゼ酵素の状態と一致する。貯蔵した電子は必要な時に還元反応として直接利用できる。

水素を電子として利用する水素エネルギーキャリアの開発 新発想エネルギーキャリアの常温合成と直接利用

この研究により、水素を電子として「常温抽出」、「長期間貯蔵」、「直接利用」できる新しい発想の水素エネルギーキャリアが開発できた。今後はさらに安価な鉄を検討し、産学連携によって実用化に向けて取り組んでいくとのこと。

写真提供:九州大学(冒頭の写真はイメージ)